コラム

宗教保守派の勝利からスキャンダル騒動へ アラバマ補選のドタバタ

2017年11月14日(火)17時00分

宗教保守派ロイ・ムーアにはホワイトハウスを追われたバノンが支援に回った Marvin Gentry-REUTERS

<保守王国アラバマ州の上院補選で宗教保守派の共和党候補に女性スキャンダルが。共和党が議席を落とせば、上院の党勢バランスにも影響する>

アラバマ州といえば、南部の中でも特に保守票の多い州であり、1997年以来、州選出の連邦上院議員は2議席とも共和党が占めています。その前は、民主党が優勢でしたが、当時は民主党の方が「人種隔離政策」を掲げていた時代でしたから、特にリベラルが優勢な時代だったわけではありません。

ちなみに、1997年からの20年間は同じ2人の共和党上院議員が連続して選出されています。1人は、リチャード・シェルビー議員ですが、もう1人のジェフ・セッションズ議員は、トランプ政権発足に伴って司法長官に転出することになりました。その議席は、とりあえず州の司法長官だったルーサー・ストレンジという人が継承しました。

ですが、アラバマ州の場合は法律で補欠選挙を実施することになっており、今年の12月に予定された補欠選挙へ向けて共和党内では予備選が行われました。この予備選で、不思議な対立構図が発生したのです。

とりあえず「現職」のストレンジ氏は、上院の同僚の受けも良かったようですし、例えば「パリ協定離脱賛成」を掲げるなど「十分に保守的な立ち位置」を示していました。また、大統領にしてみれば自分を支持してくれているということもあり、このストレンジ氏を推したのでした。

ところが、そこへ強力な対抗馬が出てきました。ロイ・ムーアという州最高裁の首席判事が予備選に出てきたのです。ムーアという人は、州の法曹の叩き上げですが、いわゆる宗教保守派であり、特に「モーセの十戒」の巨大なモニュメントを作ったり、学校の教室に掲げさせるといった「奇行」が問題になっていたのです。

州の最高裁判事が政教分離に違反しているということで、わざわざムーアを裁くために州知事が特別法廷を開くなどすったもんだの末に、この2017年4月には州最高裁の判事を解任されています。その結果として、一部の保守派からはヒーロー扱いされたりもしていたのです。

そのムーアに目をつけたのが、トランプ政権を放逐されたスチーブン・バノンでした。バノンと言う人は、宗教保守派のことを評価していませんが、このムーアの「闘争姿勢」の中に、ワシントンの権威と戦うガッツを見出したようで、なりふり構わずムーアの応援をネットを使って始めたのです。ムーアは、カウボーイハットをトレードマークに、選挙運動を繰り広げました。

その結果として、1回目の投票ではムーア候補38.9%対ストレンジ候補32.8%で勝者なしとなり、2回目の決選投票に持ち込まれた結果、ムーア候補が54.6%を得票して現職のストレンジ候補を破ってしまったのです。

つまり「トランプがバノンに負けた」ということで、メディアは結構騒いだのですが、トランプからして見れば「真正保守のムーア」を別に憎む理由もないので、予備選の後は、あっけらかんとムーアを応援していました。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、トランプ氏の「張り子の虎」発言に反論 経済

ワールド

エクソン以外もロシア復帰に関心=大統領府

ビジネス

独IFO業況指数、9月は87.7 予想外に低下

ワールド

韓国前大統領夫人の初公判開催、旧統一教会絡む収賄な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
特集:ハーバードが学ぶ日本企業
2025年9月30日号(9/24発売)

トヨタ、楽天、総合商社、虎屋......名門経営大学院が日本企業を重視する理由

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...「文学界の異変」が起きた本当の理由
  • 2
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 3
    コーチとグッチで明暗 Z世代が変える高級ブランド市場、売上を伸ばす老舗ブランドの戦略は?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    「汚い」「失礼すぎる」飛行機で昼寝から目覚めた女…
  • 6
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 7
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 8
    カーク暗殺をめぐる陰謀論...MAGA派の「内戦」を煽る…
  • 9
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 10
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 1
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 2
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分かった驚きの中身
  • 3
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    筋肉はマシンでは育たない...器械に頼らぬ者だけがた…
  • 6
    【動画あり】トランプがチャールズ英国王の目の前で…
  • 7
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 8
    日本の小説が世界で爆売れし、英米の文学賞を席巻...…
  • 9
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    東北で大腸がんが多いのはなぜか――秋田県で死亡率が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story