コラム

宗教保守派の勝利からスキャンダル騒動へ アラバマ補選のドタバタ

2017年11月14日(火)17時00分

この補欠選挙は12月12日(火)に設定されているのですが、投票までほぼ1カ月となった11月9日(木)になってワシントン・ポスト紙が大きなスクープを報じました。ムーア候補は、地区の副検事であった30代の時に、4人の未成年女性に対して性的な行為を行った、その中には当時14歳の女性も含まれていたというのです。

本人は「意図的な報道」だとして事実関係を否定、アジア歴訪中のトランプ大統領も「フェイクニュースだ」としてムーア支持を続けているのですが、ワシントンは大騒動になりました。共和党の重鎮議員たちは、次々に「ムーア不支持」を表明したのです。問題が問題だけに「かばっている」とみなされるような言動は出来ないからです。

大統領と同様に「フェイクニュース説」を強く主張し続けたFOXニュースのショーン・ハニティは、大手スポンサーが続々と番組提供を降板する事態に追い込まれました。その中には、ある大手コーヒーメーカーが入っていたのですが、事態に対して怒った宗教保守派、つまりムーア支持者が「コーヒーメーカーを打ちこわす動画」を拡散したりと、関連して様々な騒動が起きています。

問題は、アラバマの公選法では既に「投票用紙に記載する名簿」の変更受け付け期間は終わっているということです。ですから、例えば予備選2位のストレンジ候補と「スイッチする」というのはテクニカルに不可能です。そんな中、ムーア候補は「これは政治的陰謀だ」と叫び続けているのですが、「5番目の女性」が堂々と登場したり、「当時のムーア氏は、未成年の女性を連れてショッピングモールを徘徊するのが有名だった」という地元の証言がゾロゾロ出てきたり、状況はかなり苦しくなってきています。

共和党の内部からも「こうなったら民主党候補に投票するしかない」とか「万が一当選して議事堂にやってきたら、155年ぶりに倫理問題を理由に上院議員除名をやらないといけない」などという声が出ています。

こうした流れで、現在の政治情勢では「まず不可能」だったはずの「アラバマ州の上院1議席が民主党に行く」という可能性が現実味を帯びてきました。現在の連邦上院は52対48で共和党が多数ですが、2018年の中間選挙を前に、この1議席が極めて重たい意味を持ってきています。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

半導体への関税率、EUに「劣後しないこと」を今回の

ワールド

米政権、ハーバード大の特許権没収も 義務違反と主張

ビジネス

中国CPI、7月は前年比横ばい PPI予想より大幅

ワールド

米ロ首脳、15日にアラスカで会談 ウクライナ戦争終
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 2
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段の前に立つ女性が取った「驚きの行動」にSNSでは称賛の嵐
  • 3
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中印のジェネリック潰し
  • 4
    伝説的バンドKISSのジーン・シモンズ...75歳の彼の意…
  • 5
    なぜ「あなたの筋トレ」は伸び悩んでいるのか?...筋…
  • 6
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 7
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 8
    60代、70代でも性欲は衰えない!高齢者の性行為が長…
  • 9
    今を時めく「韓国エンタメ」、その未来は実は暗い...…
  • 10
    「靴を脱いでください」と言われ続けて100億足...ア…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を呼びかけ ライオンのエサに
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 6
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 7
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 8
    職場のメンタル不調の9割を占める「適応障害」とは何…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍用機の保有数」で世界トッ…
  • 10
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 4
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 5
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story