コラム

永田町に突然の解散風、自民党の戦略に死角はゼロなのか?

2017年09月21日(木)16時00分

ですが、小選挙区でどうしても自民党を追い詰めたいという一心で、仮に「全野党協力」という調整を進めてしまうと、もっと強い護憲論の勢力との合流ということが現実になります。そうなると、民進党の党首選で負けたはずの枝野氏の路線が復活することになり、民進党の立ち位置が左にズレてしまうことになります。

前原氏としては、構造改革を訴え、北朝鮮への備えを厳しくと言いつつ、それとは相反する左派勢力との選挙共闘をすることになります。改憲を争点にするというのは、安倍政権にとっては大胆なリスクを取ることになるはずが、この問題を争点に据えることで、相手の野党が実はバラバラであることをクローズアップさせることが可能になってしまうわけです。

つまり、前党首の不人気だとか、スキャンダルや離党者が相次ぐといった民進党の敵失だけでなく、消費税と憲法を争点化することで、更に自民党には有利なポイントが入ってくるという計算です。そうなれば、「加計+森友」であるとか、論戦を回避しての解散というような「失点」をカバーしても「お釣り」が来るという、そんな考え方です。

ですが、この戦略にも一箇所だけアキレス腱があります。それは、

1)「税率アップで景気の腰を折れば、トータル税収がマイナスになる危険がある」という日本経済への厳しい認識から、「消費税率を据え置きもしくは引き下げ」を主張。

2)何よりも経済を成長軌道に戻すのが先決だという理由から「改憲議論のタイミングは今ではない」と主張。

という組み合わせで対抗してくる勢力が登場した場合には弱点をさらけ出すという点です。税負担が嫌だから増税反対なのでもなく、古典的な護憲論から改憲に反対するのでもなく、日本経済の現状への厳しい認識ゆえに、増税を見送り、改憲を見送り、改革に専念するという主張です。

自民党や民進党以外の勢力が、この立ち位置から攻めてくるようですと、計算しつくされたはずの自民党の解散戦略に狂いが出てくる可能性があるのではないでしょうか。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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