コラム

トランプ初会見は大荒れ、不安だらけの新政権

2017年01月12日(木)16時50分

Shannon Stapleton-REUTERS

<大統領就任を目前に控えて当選後初の記者会見を開いたトランプ。CNNの記者と非難の応酬になったり、自分のビジネスの「利益相反」問題への対策は不十分だったりと、見えたのは不安な要素ばかり>

 現地時間の今週11日、ドナルド・トランプ次期大統領は当選後初めての記者会見を開きました。場所は例によって、ニューヨーク五番街の「トランプ・タワー」で、ここにワシントンの「ホワイトハウス番」記者たちがゾロゾロ移ってきて、このイベントは開催されました。

 注目された会見ですが、中身は大荒れでした。まず、冒頭にホワイトハウスの報道官に内定しているショーン・スペシア氏が登壇したのですが、大統領選挙におけるロシアのハッキング疑惑に関わるCNNなどの報道姿勢をいきなり非難、さらにトランプ氏を「紹介」するために出てきたペンス次期副大統領も同じような批判をしていました。

 トランプ氏本人は「この場所で大統領選の出馬宣言をしたことを思うと感慨深い」などと最初は落ち着いた語り口でした。ですが、やがて話題が進むにつれて「いつもの」放言スタイルに逆戻りして、CNNのジム・アコスタ記者との間では、激しい非難の応酬まで飛び出す始末でした。

 内容としては、大きく3つに分けられると思います。まずロシアのハッキング疑惑をめぐってですが、CNNに代表されるアメリカのメディアは、とにかくこの問題を中心に「次期政権を追及」という構えで来ていただけに、トランプ氏側も「受けて立つ」と言わんばかりの「ケンカ腰」という感じで終始していました。

【参考記事】ロシアのサイバー攻撃をようやく認めたトランプ

 要するに、「ロシアがハッキング行為を行ったようだ」(これはトランプ氏も否定していません)という話がまずあり、「従って大統領選が歪められた」とか「ロシアとトランプ陣営は癒着している」というような話に発展しているのです。

 この問題では、トランプ氏とその周辺は、CIAなどの諜報機関(インテリジェンス・コミュニティ)と激しく敵対し、同時にCNNなどの報道姿勢を「虚偽報道」だとして非難しています。これに対して民主党関係者やメディアは、「安全保障の根幹をなす諜報機関との確執を抱える政権では、アメリカの安全は確保できない」として、とにかくこの問題でトランプ氏を追及する構えでしたが、今回の会見では「対立の激しさ」だけが浮き彫りになった格好です。

 2番目は、フォードにメキシコ工場新設を断念させて、ミシガンで工場を拡張させたというような、自動車産業などの「空洞化」への「介入」についてです。これは、次期大統領としては「ここ数週間、力を入れてきた」問題と胸を張っていました。ちなみに、トランプ氏の要求を拒否しているGMには「フォードに追随してもらいたい」と「やんわりと圧力」をかけていましたが、トヨタに関する言及はありませんでした。

 3番目は大統領職と、企業の経営者という「二足のわらじ」を履くことでの「利害相反問題」です。この問題が実は今回の会見の注目点でした。というのは、本来はこの会見は昨年末の12月15日に予定されていたのですが、この「利害相反問題」の解決ができていないために、年明けまで延期された経緯があるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

モルガンSも米利下げ予想、12月に0.25% 据え

ワールド

トランプ氏に「FIFA平和賞」、W杯抽選会で発表

ビジネス

9月PCE価格、前年比2.8%上昇・前月比0.3%

ワールド

トランプ氏、加・メキシコ首脳と貿易巡り会談へ W杯
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 3
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 4
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 5
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 6
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story