コラム

ボブ・ディラン受賞の驚きと、村上春樹の機が熟した2つの理由

2016年10月14日(金)16時30分

 また「卵」というのも単純な話ではありません。インティファーダというと、パレスチナ人が卵や石を投げる平和的な抗議というイメージがありますが、実際は火炎瓶や自爆テロも伴っています。これに対するイスラエル側の行動も実弾射撃から戦車隊の投入へとエスカレートしています。そのような複雑な紛争を解決に導くには、「一方が善で他方が悪」だというような原理主義的な思想ではなく、故シモン・ペレス氏のような粘り強いリアリズムが必要なのだと思います。

 エネルギー政策も同様で、原発に対して最初から否定する態度も、また依存を前提に行動する態度もどちらも合意形成能力には乏しいわけです。目に見えない放射線に対して人間が本能的に抱く危機回避行動を甘く見ない一方で、絶望的に資源のない国家が、温室効果ガスの排出抑制という地球規模の使命を果たすためには、どんなエネルギーの「ミックス」が適正なのかは、極めて複雑な議論を要求します。

 現代の社会的課題、国際的な紛争というのは、そのような「複雑系」として存在します。例えばシリア問題がまさにそうであり、中国の一部企業の破綻処理などもそうだと思います。そのような社会において、「一方の立場にコミット」してしまう態度では、もう問題解決が不可能になっています。そのような時代にあって、世界に対して距離を置く「デタッチメント」の思想というのは、別の意味での重要な価値が出てきていると思うのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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