コラム

ライアンやマケインも敵に回し、ますます孤立するトランプ

2016年08月04日(木)15時40分

Eric Thayer-REUTERS

<ライアン下院議長やマケイン上院議員の予備選について前代未聞の「不支持」を表明したトランプ。共和党内まで敵に回す言動に、メディアからは末期的な見方が>

 前回のコラムでもお伝えしたイスラム教徒の戦没米兵の遺族、カーン夫妻との確執に関しては、トランプはいくらでも謝罪のタイミングがあったはずですが、逆にカーン夫妻に対して怒りを募らせるばかりです。そんなトランプに対して、民主党だけでなく共和党の中からも批判が加速しています。

 自分自身が帰還兵であるジョン・マケイン上院議員を筆頭に、ポール・ライアン下院議長なども「カーン氏へのリスペクト」と「トランプへの批判」を表明しています。また、副大統領候補のインディアナ州知事マイク・ペンスの場合は、さすがにコンビを組んでいるだけあってトランプの批判はしていませんが、カーン氏への尊敬を何度も口にしており、トランプの「火消し」役に回っている格好です。

 選挙戦の初期から熱心なトランプ支持者として常に寄り添ってきた、ニュージャージー州のクリス・クリスティ知事もカーン氏への支持を表明するなど、これまでとは違った展開になっています。

【参考記事】戦没者遺族に「手を出した」トランプは、アメリカ政治の崩壊を招く

 そんな中、トランプは誰もがアッと驚く作戦に打って出ました。自分を批判したライアン下院議長が再選を目指すウィスコンシン1区の下院議員選挙の予備選に関して、「議長を支持しない」と宣言したのです。同時に、アリゾナ州のマケイン議員についても同様の通告をしています。

 共和党の大統領候補が、同じ共和党の下院議長と上院の長老議員に対して「再選を支持しない」というのは、前代未聞の出来事です。せっかく党大会を乗り切って、正式な候補指名を受けたのにも関わらず、あらためてトランプと共和党の中枢との間に、深い亀裂が走ることとなりました。

 トランプはこの他にも「奇行」と言いますか、「意味不明な言動」が止まりません。例えば、今週2日にバージニア州で演説中に、赤ん坊が泣いたのですが、これに対して一旦は「俺は赤ん坊は大好きなんだ。なんてかわいいんだ」と言ったのですが、その後でもう一度その赤ん坊が泣いたところ「出て行け」と命じたのでした。

 この経緯についてトランプは「赤ん坊がかわいいというのは、俺は冗談で言ったんだが、通じなかったみたいだ」と言っていたそうですが、大統領を目指す人間の言動とは思えないと批判されています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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