コラム

オバマの広島スピーチはプラハ型か、オスロ型か

2016年05月24日(火)16時50分

Hoang Dinh Nam-REUTERS

<就任後に訪問したプラハでは演説で「核廃絶」をぶちあげたオバマだが、その後のオスロのノーベル平和賞の受賞スピーチでは国内の反発を受けてすっかり委縮。任期8年の外交を総括するとも言える広島訪問ではどんなスピーチを行うか注目される>

 オバマ大統領は、日本のG7に行く前にベトナムを訪問しています。ハノイ空港に到着した青い「エアフォースワン」の機体に黄色いタラップがかけられ、そこからオバマが降りてくる「映像」がすでに報道で流れています。実は、現職のアメリカの大統領がベトナムを訪問するのはこれが初めてではなく、クリントン(2000年)、ブッシュ(2007年)に次ぐものです。

 今回のベトナム訪問に関して、大きなテーマとなったのが「武器禁輸の解除問題」です。現在の統一ベトナムというのは、ベトナム戦争ではそれこそ死力を尽くして戦った相手ですから、長い間「禁輸対象」から外すことができなかったのですが、いよいよ解除することになりました。

 具体的には、中国を刺激するのは避けつつも、中国に対して「南シナ海」問題での米越の結束は示したい、その微妙なバランス感覚の中で、この判断は下されたのだと思います。

 一方で、「オバマがベトナムへ行くのは、謝罪のためではないか?」という批判も出ています。保守派のFOXニュースでは、そのような扱いをしており、「ベトナムと広島というのは謝罪ツアーではないか」という批判の声もあります。

【参考記事】オバマ大統領の広島訪問が、直前まで発表できない理由

 過去の大統領のベトナム訪問に関して言えば、例えばクリントンの場合は、自ら国交正常化をはかり、その仕上げとして行ったわけです。ですから、その意義というのはまさに歴史的でした。「若き日にベトナム反戦運動を行った大統領が、現職として初めてベトナムの地を踏む」ということで、大いに話題になりました。

 ですが、この時もアメリカ国内では保守派からの批判がありました。戦争の惨禍、とりわけソンミなどの虐殺事件や、枯れ葉剤の使用などについて、アメリカの大統領が「謝罪」の姿勢を見せるのは許せないという批判です。そして、今回のオバマに対しても同様の議論があります。

 というよりも、オバマの場合、ビル・クリントンよりも、もっと「深刻」なものを抱えていると言っていいでしょう。それは、大統領に就任した直後の2009年に始まります。

 2009年の4月、チェコのプラハを訪れたオバマは、有名な「核廃絶演説」を行いました。まさに今回の「広島訪問」へとつながる、オバマの「核に対する哲学」の表明がされたのです。この時には、アメリカの国内では、一部に反対論があったものの、世界各国から高く評価されたこともあって、大きな騒ぎにはなりませんでした。

 問題は、この年の10月に「ノーベル平和賞」受賞のニュースが流れたことです。この時には、アメリカ国内は大変な騒ぎとなりました。とにかく、景気が最悪の状態であることが背景にあり、その一方で、大統領が国際協調政策によって「世界から評価される」ことは、アメリカのために働いているのか、世界のために働いているのかわからないというのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、米の入国禁止令を非難 「底深い敵意示してい

ワールド

エルサルバドルに誤送還の男が米に帰国、不法移民移送

ワールド

米連邦高裁、AP通信への取材制限認める 連邦地裁判

ビジネス

中国外貨準備、5月末時点で3.285兆ドル 予想下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:韓国新大統領
特集:韓国新大統領
2025年6月10日号(6/ 3発売)

出直し大統領選を制する李在明。「政策なきポピュリスト」の多難な前途

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラドールに涙
  • 2
    ひとりで浴槽に...雷を怖れたハスキーが選んだ「安全な場所」に涙
  • 3
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット騒然の「食パン座り」
  • 4
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 5
    プールサイドで食事中の女性の背後...忍び寄る「恐ろ…
  • 6
    救いがたいほど「時代錯誤」なロマンス映画...フロー…
  • 7
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「銀」の産出量が多い国はどこ?
  • 9
    「イラつく」「飛び降りたくなる」遅延する飛行機、…
  • 10
    ディズニーの大幅な人員削減に広がる「歓喜の声」...…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊の瞬間を捉えた「恐怖の映像」に広がる波紋
  • 3
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっしり...「これ何?」と写真投稿、正体が判明
  • 4
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 5
    猫に育てられたピットブルが「完全に猫化」...ネット…
  • 6
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 7
    日本の女子を追い込む、自分は「太り過ぎ」という歪…
  • 8
    ウクライナが「真珠湾攻撃」決行!ロシア国内に運び…
  • 9
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 10
    50歳を過ぎた女は「全員おばあさん」?...これこそが…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 6
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 7
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 8
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
  • 9
    ペットの居場所に服を置いたら「黄色い点々」がびっ…
  • 10
    3分ほどで死刑囚の胸が激しく上下し始め...日本人が…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story