コラム

オバマの広島スピーチはプラハ型か、オスロ型か

2016年05月24日(火)16時50分

 その反発は大きく、4月に遡って「核廃絶演説」を否定せよというような論調も見られました。また、その直後に「アフガンへの増派」を決定した際には、今度は世界から「平和賞をもらっておきながら、戦争にのめり込むとは何事か」という批判も浴びたのです。結果的に、12月10日にオスロで行われた授賞式でのスピーチは、反対派を意識した何とも中途半端なものとなりました。

 就任1年目にこうした「激しい洗礼」を受けたオバマ政権というのは、以降は姿勢を少し変えていきました。どのようなアプローチかというと、要するに反対派を刺激しない方法です。面倒なことは説明しないとか、細かな工夫でバランスを取るといった方法論で、世論からの「集中砲火」を避ける手法です。

 例えば、ベトナムへの武器供与に関しては、同国の人権重視の姿勢が進展しなければ拡大はできないとして、禁輸を解除しても「すぐに取引が爆発的に伸びるわけではない」としています。こうした「条件」をどうして入れるかというと、アメリカの国内世論を意識しての行動と言えます。

【参考記事】安倍首相の真珠湾献花、ベストのタイミングはいつか?

 広島に関しても同様で、色々と細かなことをやっています。例えば、直前になって第2次大戦中に日本軍の捕虜となった人物を帯同するプランを発表したのも、その一つでしょう。また、発表するプロセスについても、まずケリー国務長官が訪問し、世論に対する一種の根回しを行い、そのリアクションを確認した後、大統領の訪問に関しては慎重にタイミングを図って発表したのも同じ理由です。

 アメリカの大統領というのは、非常に大きな権限があります。ですから、こういった問題に関して、例えば「オバマ・ドクトリン」とか「オバマ・ビジョン」のようなものを大きく「ブチ上げ」て、もっと堂々とベトナムや広島に行くことも、できるはずです。ですがオバマは、2009年の秋以降はそういった方法論は取っていません。

 つまり、よく言えば「反対派を刺激しない」というキメの細かさがあり、悪く言えば「堂々と自分の主張を述べるのをやめてしまった」ことになります。けれども、これでは、この政権の8年間に関して言えば、そのメッセージ発信力は「尻すぼみ」になったということになりかねません。

 今回の広島でのスピーチが、2009年4月のプラハで行ったような堂々たるものとなるのか、それとも2009年12月にオスロで行ったような中途半端なものとなるのか、大変に注目がされます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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