コラム

オバマの歴史的キューバ訪問で、グアンタナモはどうなる?

2016年03月22日(火)17時10分

 具体的には、「民間人に対する刑事裁判ではなく、軍事裁判を適用すること」「裁判所の逮捕状がなくても敵兵として拘禁し、しかも戦争でもないので、ジュネーブ条約による捕虜への権利も与えないこと」「拷問などの超法規的な取り調べを可能にすること」といった、まさに文字通りの「無法」を可能にする「特殊ゾーン」というわけです。

 弁護士出身のオバマ大統領はそんなことは絶対に許すことはできません。ですから2008年の選挙戦では、この「グアンタナモ収容所」の閉鎖について、オバマは公約にハッキリと明記しています。ですが、共和党は激しく抵抗しており、この8年間に徐々に議会での勢力を拡大していることもあって、「グアンタナモ閉鎖」には絶対に反対の意向を変えていません。

 その背景には、共和党の保守主義の中にある「憲法保守主義」というものがあります。まず、憲法の中の「基本的人権はアメリカが犠牲の上に勝ち取った」ものであるから、その「アメリカに敵対する人間には適用しない」という「人権概念の普遍性を認めない」という考え方がベースにあります。

【参考記事】グアンタナモというオバマの袋小路

 これに、武装の権利の拡大解釈であるとか、州の自治権の拡大解釈など、自分たちの価値観に都合のいいところだけを抜き出して「自分こそ憲法の擁護者」という姿勢を見せるのが「憲法保守主義」というわけです。

 今回の大統領予備選で言えば、特にテッド・クルーズ候補はその典型です。それはともかく、オバマとしてはどんなに閉鎖したくても、任期末までの間に、「グアンタナモ収容所」の閉鎖はできないでしょう。それは、この政権の政治的な限界とも言えます。

 実は、このグアンタナモ湾に関しては、ラウル・カストロ首相は「返還要求」を意向として示しています。ですがオバマとしては、そもそも「閉鎖したい収容所を、共和党の反対で閉鎖できない」状態では、湾の全体を返還する交渉に乗っただけで、共和党から総スカンを食う可能性があるわけです。

 その辺はラウル首相も心得ていて、今回も、返還要求はあったものの、「どこかの時点で」という言い方で、アメリカ側の事情に理解を示しています。ですが、この「グアンタナモ収容所」というのは、21世紀のアメリカの「闇」であることは間違いないのです。政治的合意で収容所を閉鎖した上で、いつかの時点で地域全体をキューバに返還することは、避けられない流れとなるでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISS、コアウィーブによる90億ドル規模の買収計

ワールド

アラスカLNG事業、年内に費用概算完了=米内務長官

ワールド

アングル:高市政権、日銀との「距離感」に変化も 政

ワールド

世界安全保障は戦後最も脆弱、戦わず新秩序に適応をと
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 7
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 8
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 9
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 10
    若者は「プーチンの死」を願う?...「白鳥よ踊れ」ロ…
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 6
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 7
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story