コラム

シリア問題、米ロ協調のシナリオはあるのか?

2015年11月17日(火)15時50分

トルコ・アンタルヤのG20サミット会場でオバマとプーチンは膝詰めで話し合っていた Cem Oksuz-REUTERS

 129人の犠牲者を出した先週末のパリ同時テロを受けて、アメリカのオバマ政権は「シリアの内戦終結」へ向けての調整を続けていました。過激派組織ISILはその「首都」をシリア領内のラッカに置き、シリアでの活動を続けているので、そのISILの活動を抑えこむにはシリアの内戦を終わらせることが不可欠だからです。

 特に今週閉幕したトルコでのG20へ向けて、何らかの合意に到達することを目指して、ロシアとの事前会談がウィーンで行われていました。会談は14日まで続き、アメリカのケリー国務長官とロシアのラブロフ外務大臣は「内戦の停戦」、「憲法改正」、「新憲法下での大統領選」という3段階のステップによる解決案を「叩き台」として調整を続けたようです。一部の報道によれば、選挙まで18カ月というタイムラインを設定して、そこから逆算して停戦と憲法改正を行いたい、そんな提案もされたようです。

 ですが、最終的に合意には至りませんでした。米欧としては「化学兵器を使用して自国民を殺害」したアサド政権については、一旦は「ロシアの仲介で化学兵器の廃棄」をさせたわけですが、ロシアの仲介を飲んだのは直接アサドとの戦争をするのは避けたかっただけの話であり、アサドを許すつもりはありません。

 ですが、ロシアにとってアサドは長年の盟友であるとともに、地中海東部の、そして中東地域における戦略的パートナーです。租借している軍港を維持したいということもあるわけで、その盟友アサドを「切る」ことはできません。

 ですから、「憲法を改正して選挙を」という提案も、ロシアからすれば「それまではアサド政権を温存」すること、そして「アサド自身も出馬可能であること」など様々な注文をつけたのだと推測できます。仮にそうであれば、合意は難しいということになります。

 また、一部報道によれば米ロ交渉に関しては、ウクライナの問題も引っ掛かっているようです。12月末に期限の来る「30億ドル(日本円で約3600億円)」の債務に関して、ロシアとしては面倒が見られないので、IMFからウクライナへの融資という強硬な要請をしているのですが、西側としてはこれも飲めない話です。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米中小企業、26年業績改善に楽観的 74%が増収見

ビジネス

米エヌビディア、株価7%変動も 決算発表に市場注目

ビジネス

インフレ・雇用両面に圧力、今後の指標に方向性期待=

ビジネス

米製造業新規受注、8月は前月比1.4%増 予想と一
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 5
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    「嘘つき」「極右」 嫌われる参政党が、それでも熱狂…
  • 9
    「日本人ファースト」「オーガニック右翼」というイ…
  • 10
    悪化する日中関係 悪いのは高市首相か、それとも中国…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 5
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story