コラム

18歳への有権者教育とは何か?

2015年06月23日(火)10時58分

 「18歳選挙権」が国会で可決しました。

 まず成人年齢を18歳に「引き下げ」るとして、議論としては(1)民事上の成年扱い、(2)刑事上の成年扱い、(3)公職選挙法による選挙権の付与、(4)国民投票における選挙権の付与、という4つの要素の全体を考えて制度変更をすべきだと思います。その点で、今回の動きとしては、(4)が先行し、その結果(3)も法改正が成立したところで、(1)と(2)をどうしたらいいのか――そんな議論の順番になっています。

 これ自体がおかしな話であるわけですが、現在は公職選挙法の改正によって、次回の国政選挙(正確に言うと改正後1年を経た以降の選挙)からは、18歳以上に選挙権が付与されることが決定しています。

 これを受けて、例えば菅官房長官は「政府としても、各選挙管理委員会や学校現場等と連携し、新たに選挙権を得る高校生や大学生を中心に周知・啓発に取り組むとともに、主権者教育を一層推進していきます。」と話しています。

 これも順番が逆であり、本来であれば18歳から19歳といったゾーンの若者の意識の高まりを受けて、制度改正が後に来るべきなのですが、先に制度が変わってしまい、新たに対象となった若者に対して、大人たちが「どうしたらいいのか」と迷いながら「教育を推進する」ということになったわけです。

 では、どんな「有権者教育」が必要になるのでしょうか?

 それは、まず18歳から19歳、そしてすぐに選挙権を手にすることになる17歳とか16歳の若者に、一番当事者意識の持てる課題に絞って、徹底した政策論争を体験してもらう、それが一番いいと思います。

 まず、冒頭に述べたように、選挙権に加えて「民事上の成年扱い」を18歳に引き下げるのか、そして「少年法」の対象を18歳未満までとするのかという問題があります。この問題こそ、16歳から19歳の若者にとって「当事者」の問題であるわけです。

 権利が欲しいのか、その代わりとしての責任と義務を負う用意があるのか、制度変更によって損得の影響を受けるケースはあるのか、その場合の影響をどんな原理原則から是としたり否としたりするのか、思い切り考えて、思い切り議論してもらうのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米関税の影響、かなりの不確実性が残っている=高田日

ワールド

タイ経済成長率予測、今年1.8%・来年1.7%に下

ワールド

米、半導体設計ソフトとエタンの対中輸出制限を解除

ワールド

オデーサ港に夜間攻撃、子ども2人含む5人負傷=ウク
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索隊が発見した「衝撃の痕跡」
  • 3
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 4
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 5
    米軍が「米本土への前例なき脅威」と呼ぶ中国「ロケ…
  • 6
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 7
    熱中症対策の決定打が、どうして日本では普及しない…
  • 8
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    「22歳のド素人」がテロ対策トップに...アメリカが「…
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門家が語る戦略爆撃機の「内側」と「実力」
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 6
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 7
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 8
    サブリナ・カーペンター、扇情的な衣装で「男性に奉…
  • 9
    定年後に「やらなくていいこと」5選──お金・人間関係…
  • 10
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 6
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 7
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 8
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 9
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 10
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story