コラム

「同一労働・同一賃金」はどうして難しいのか?

2014年12月04日(木)10時53分

 答えは簡単です。「正社員と非正規の仕事は違う」からです。5点指摘できると思います。

(1)4時間勤務と8時間勤務というのは単に「労働時間が倍」でありません。8時間勤務(7時間の場合もあり)というのはフルタイムであって原則正社員であり、その正社員には「突発事態や繁忙期」には8時間を超えて勤務することが前提となっています。悪いことに、その場合に賃金を払わない「サービス残業」の発生する可能性も、正社員の方が圧倒的に高いのが現実です。

(2)正社員の業務内容は、「日々の業務」だけではないのが普通です。例えば、全社的な「経営方針発表会」のようなものがあれば、新幹線や飛行機に乗って出張してその会議に出席し、またその後の懇親会などで本社や他事業所の「日々の業務では無関係」な同じ会社の社員と情報交換を行わなくてはなりません。また、全社横断的な「中堅社員研修」などに担ぎ出されたり、ある工場が異常事態になると「支援要員」として長期出張をさせられたりするのです。そうした本来業務と無関係な時間帯まで査定や評価の対象にされるのです。

(3)正社員はどうして余計な会議に出席しなければいけないのか、また実務研修とは違う「中堅社員研修」や「管理職選抜試験」などに参加しなくてはならないのかというと、正社員というのはイコール「管理職候補」だからです。会社はそのように正社員を見て人事異動をしたり、研修をしたりします。そのこと自体は正社員には負荷になりますが、将来の管理職という地位を「人質に取られている」正社員としては応じなくてはなりません。そうした会議や研修の多くは儀式ですが、儀式への真剣な参加は、共同体の団結を確認する重要なものと位置付けられています。

(4)正社員は管理職候補であるために、管理職になる前に複数の「現場」を経験することが期待され、その結果として「人事ローテーション」の対象とされます。ですから、辞令一枚で日本だけでなく海外にも転勤しなくてはならず、転勤を拒否すると管理職昇進が遅れるか不可能になるという「大きな負担」を背負っています。

(5)正社員は終身雇用ですから、その正社員だけによって構成された「共同体」に組み込まれています。そのために上司の公私混同をした要求、例えば「引越しの手伝いをしろとか、社長夫人の観光を案内せよといった要求」を拒否できないとか「税務調査とか労働基準監督署の調査といった場合に、内心の良心に従うのではなく、また法律に100%従うのではなく、企業への忠誠心から企業側の利害に基づいて行動しなくてはならない」といった難しい立場に立たされます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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