コラム

タカタ製エアバック「大量リコール」の問題とは?

2014年12月02日(火)12時27分

 タカタ製エアバックに関する不具合問題ですが、私は2009~10年に起きた「トヨタの大量リコール問題」あるいは、2012年前後に発生した「GSユアサのB787バッテリー問題」などとは、トラブルの質が異なるように思います。

 とりあえず現状を受けての感想を箇条書きにしておきます。

1)一部には「日系企業だから批判される」という見方があるようですが、私はこれには否定的な立場です。エアバックに関しては、タカタが第1人者であること、またリコール対象車種が、日系メーカーだけでなく、GMやフォード、クライスラーなどデトロイト勢、あるいは欧州車など多岐にわたっているからです。

2)ただ、各自動車メーカーとしては「自分たちはエアバックのことは詳しくは分からない」として、まるでユニットを「ブラックボックス」のように扱い、結果的にタカタに全ての責任を押し付けているという面は明らかです。

3)この問題ですが、全体的には車が高性能化しているのに価格は据え置きという中で、下請け価格が「叩かれる」構造にある、つまり、一見するとデフレと無縁に見える自動車業界にも、デフレ的な問題があるということも背景にはあると思われます。消費者としては、「サイド・エアバック」などを含めると、一台に7つも8つもエアバックが付いているのは安全性能がアップしたことになるわけですが、それでも車両価格が2万ドル前後というのは、どこかに「しわ寄せ」があったと見るのが自然ではないでしょうか。

4)それにしても対応が遅すぎます。その背景にも、納入先の自動車メーカーの「顔色」を意識すると部品メーカーが正直に問題に向き合えない体質があるように思います。また、タカタに非難が集中しているのは、採用企業が日系だけでなく、フォードやGMも大量に入っている中で、自動車業界全体として「タカタに責任を押し付けている」という面もあると思います。

5)上院公聴会での対応は良くなかったと思います。タカタの清水博・品質保証本部長は英語はできるし、想定問答などもしっかり準備していたようですが、いかんせん日本人英語で「ニュアンスが全く伝わっていなかった」のです。もっと言えば「固いニュアンスでの話し方」のために「表情のない、パーソナルな感情のない、冷たい日本人のビジネスマン」という印象になっていました。トヨタの豊田章男社長が「辣腕通訳」を活用していた(アメリカの価値観と英語の語感を踏まえた高度な意訳が効果的でした)のと比べると、清水氏には酷ですが完全に失敗でした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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