コラム

タカタ製エアバック「大量リコール」の問題とは?

2014年12月02日(火)12時27分

6)北米は走っている車の数がけた違いですし、車の台数だけでなく走行距離も物凄いので、問題の発生率は低くても発生数がある程度あることになります。その結果として、ハッキリした被害例が出てしまっており、社会的には無視できないことになっているのです。また、金属片の飛散という症状に関しては弁明の余地のないぐらい明らかということもあります。

7)1つの大きな問題は、メキシコの製造拠点における品質管理だと思います。これは推測ですが、日本人の管理職とメキシコ人の現場との間に、コミュニケーションやマネジメントの問題が起きていた可能性を感じます。エアバック部品に食物の破片が混入していた(何か食べながら作業していた?)という報道もあるぐらいです。

8)問題の原因ですが、よくわからないことでは、B787の「GSユアサ製バッテリー」の問題に似ています。ですが、バッテリー過熱の原因は、配線ミスや電源管理ソフトの不具合によって過電流の負荷がかかった可能性が捨てられない、つまり100%バッテリーの責任とは言えない一方で、今回のエアバックに関しては、ほぼ100%タカタの納入した部品の中で起きていることから、責任は全てタカタに来てしまうのは避けられないわけで、この点において問題の構造は異なります。

9)分からないなりに原因を考えてみましょう。エアバックというのは、火薬を爆発させて瞬時に高圧のガスを発生させ、その圧力で「バック」を膨らませる構造です。その爆発で高圧ガスを発生させる「インフレーター」という部品が破損して、その破片がガスの圧力で高速飛散するのが今回のトラブルです。ということは、原因としては「インフレーターの金属部品の強度不足」「インフレーターの金属部品の構造欠陥」「同じく金属部品のひび割れ等の劣化」「爆発ガスの圧力過大」といった要素が考えられます。一部に温度の高い場所で事故が起きやすいというデータも報道されていますが、高温で金属が柔らかくなったからなのか、高温でガスの圧力が大きくなったからなのかもわかりません。いずれにしても、原因を「これだ」と絞り込んで特定するのは難しいというのは本当だと思います。

10)ですが、破損が起きた部分の強度を上げて金属片の飛散防止をすることは難しくないわけで、対策を施した部品との交換で安全が確保されるということに偽りはないと理解できます。

 いずれにしても、日本の製造業の信頼が揺らいでいるのは事実だと思います。この点に関しては、もっと社会的に真剣な議論が必要です。今回の問題は「デフレからコストカット」という流れ、「為替レートや人件費の問題から海外生産へ」という流れが引き起こした構造的な問題とも言えるからです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米財務長官、FRBに利下げ求める

ビジネス

アングル:日銀、柔軟な政策対応の局面 米関税の不確

ビジネス

米人員削減、4月は前月比62%減 新規採用は低迷=

ビジネス

GM、通期利益予想引き下げ 関税の影響最大50億ド
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ポンペイ遺跡で見つかった「浴場」には、テルマエ・…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 9
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 10
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 9
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 10
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story