コラム

共和党予備選「院内総務敗北」で混迷深まる米政局

2014年06月12日(木)13時18分

(5)これで、「与野党合意のネゴシエーター」が消えてしまい、米政局の混迷が深刻化しそうです。特に「不法移民の合法化法案」は、カンター候補の奔走により可能性が出てきていたのですが、今回の予備選では「カンターの移民容認政策を許すな」というスローガンを掲げたブラット氏が勝ったこともあり、一気にこの問題は暗礁に乗り上げた格好になります。

(6)不法移民問題に関しては、カンター氏の調整により「共和党内も穏健論に」なってきたトレンドがあり、その上で共和党内で「合法化賛成」という立場を代表してきたマルコ・ルビオ上院議員であるとか、ジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事(ジョージ・W・ブッシュ元大統領の弟)などへの「大統領選への待望論」があったわけです。少なくとも、この動きには大きな影響があるでしょう。

(7)では、ここのところ勢いが消え「もう政治的には死んだ」と言われていた「ティーパーティー」が復権していくのでしょうか? 確かに今回は「大きな政府反対、大企業への優遇反対」を叫んだブラット候補が勝ったわけですが、これが全国的な政治のトレンドにおいて「テイーパーティーの逆襲」の兆候になるかは、全く分かりません。

(8)これで共和党の内紛が深まったとして、民主党、特に今週本を出して「大統領選への事実上の始動体制」に入ったヒラリー・クリントンなどには有利に働くのでしょうか? 必ずしもそうではないという見方があり、私もそう思います。今回の「大逆転」の背景にあるのは、ワシントンの現状への「形にならない不満」であり、その攻撃対象には「共和党のベテラン議員たち」も「オバマ大統領」も等しく入ってくる中で、ヒラリーという人も「閉塞した現状を作った張本人」と見られているからです。

(9)おそらく、今回の驚愕すべき選挙結果が示しているものがあるとすれば、そうした「ハッキリしない不満感、閉塞感」であると思います。仮に今後の政局の中で、共和党にしても民主党にしても「全く新しいタイプの新鮮なキャラクター」が登場した時には、一気にその人物が勢力をつかむ、そんな予兆のようなものを感じるのです。

(10)その「新鮮な何か」に関して言えば、おそらくは「より財政を健全化へ」という方向性に加えて、「より孤立主義的な、よりアメリカ以外のトラブルには関わりたくない」という方向性を内包したものになりそうです。

 いずれにしても今回の「カンター落選」の衝撃波は、11月の中間選挙へ向けた政局を大きく揺さぶるだけでなく、2016年の大統領選の行方にも影響を与えそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マラリア死者、24年は増加 薬剤耐性や気候変動など

ワールド

米加当局「中国系ハッカーが政府機関に長期侵入」 マ

ビジネス

ロシア大手2行、インド支店開設に向け中銀に許可申請

ワールド

ガザの反ハマス武装勢力指導者が死亡、イスラエルの戦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 6
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 7
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 8
    見えないと思った? ウィリアム皇太子夫妻、「車内の…
  • 9
    【トランプ和平案】プーチンに「免罪符」、ウクライ…
  • 10
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 5
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story