コラム

ようやく発表された「北海道新幹線車両」、しかしまだまだ問題は山積

2014年04月17日(木)13時01分

 2015年3月に開業予定の北陸新幹線金沢延伸は、新型車両の「E7系・W7系」も含めて話題になっています。その一方で、その1年先、つまり2016年春開業予定と言われている「北海道新幹線」の新青森=新函館(仮称)間に関しては、全国的にはまだ良く知られていないようです。

 この「北海道新幹線」については、JR北海道の一連の不祥事を受けて、「北海道側の新造車両」に関する発表が遅れていました。そのために、この間、色々な憶測が出ていたのも事実です。例えば、JR北海道には「新幹線運行の免許が下りないのではないか」とか、そのために、現在の津軽海峡線の「交流2万ボルト」をフル新幹線規格の「2万5千ボルト」に上げる昇圧を「見送る」、そうすれば青函トンネル以北は法的には新幹線ではなく「スーパー特急」になるので免許が不要だ、などという説まで地元では流れていました。

 反対に、地元では、そんな妥協案でもいいから「2016年3月開業」だけは実現して欲しいという、悲痛な思いがあったということも言えます。

 ですが、そうした懸念の霧は少しずつ晴れてきました。まず、青函トンネル区間というのは、全国屈指の「貨物列車の大動脈」なのですが、その区間の電圧アップに対応するために、JR貨物はEH800型という2万5千ボルト対応の可変電圧式の新型機関車を既に発注、第一号機は完成しているという事実があります。

 また、当初から新幹線規格で作られている青函トンネル内を「標準軌・狭軌」の両方の車両が通過できるように「三線軌条化」する工事も進んでいます。更に、津軽半島内の工事、そして北海道側の工事も予定通り進捗しているのです。これに伴って、津軽海峡線の知内、吉岡海底、竜飛海底の三駅は廃止になりました。やがて新函館(仮称)になる現在の渡島大野駅の工事も相当に進み、その隣には車両基地も姿を表しています。

 そんな中、4月15日にはようやくJR北海道から「北海道新幹線車両」の発表がありました。内容は、至極妥当なもので、現在東北新幹線「はやぶさ」の車両として、どんどん新造が進んでいる営業最高速度320キロのE5系を、ほぼそのままJR北海道も4編成発注するというのです。

 但し、内装色には多少の独自性を出すのと、緑と白の基本的なカラーは同一であるものの、JR東日本のE5系ではピンク色だったアクセントのストライプが、北海道仕様では紫になり、名前も「H5系」となりました。ちなみに、紫というのはラベンダーやライラックの色ということだそうです。

 北を表すNでも良かったのかもしれませんが、新幹線の「N」というのは東海・西日本・九州に「N700系」があるので紛らわしい、そこでホッカイドウの「H」となったのだと思います。では、これで2016年3月へ向けて新函館(仮称)開業への問題はクリアされたのでしょうか? そうでもないのです。まだまだ難問が沢山あるのです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド反発、ロ産原油購入巡る欧米の批判は「不当かつ

ワールド

ロシア、中短距離ミサイル配備制限を解除 米の欧亜展

ワールド

中国やパキスタンなどの「傭兵」が戦闘、ウ北東部=ゼ

ビジネス

米製造業新規受注、6月は前月比4.8%減 航空機受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザベス女王の「表情の違い」が大きな話題に
  • 4
    こんなにも違った...「本物のスター・ウォーズ」をデ…
  • 5
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「原子力事…
  • 6
    自分を追い抜いた選手の頭を「バトンで殴打」...起訴…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    すでに日英は事実上の「同盟関係」にある...イギリス…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医…
  • 6
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 7
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 8
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 9
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 10
    メーガンとキャサリン、それぞれに向けていたエリザ…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 3
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 4
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 5
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 6
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 7
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 10
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story