コラム

特定秘密保護法案、絶叫ではなく議論が必要なら、その中身は?

2013年12月03日(火)12時47分

 自民党の石破幹事長の発言には落胆させられました。特定秘密保護法案について、絶叫口調の反対はダメで、相互に理解者を増やすような議論が大事だという指摘それ自体は正しいのです。明らかに政権与党と世論との間に乖離があり、相互に理解を詰めなくては社会的な合意は形成されないという事実を指摘した点では、現状認識としては正当だと思います。

 問題は、石破幹事長自身がその「理解者を増やすような議論」を全く展開していないということです。これは大変な自己矛盾であり、民主主義の原則に反する行為だと言えるでしょう。

 ちなみに、この発言(実際はブログのコメント)に関して、比喩が不適切だという批判があり、幹事長が最終的に文言の訂正に応ずるというような「手続き」がありました。ですが、これ自体は「法案に関する中身のある議論」とは全く別のものであり、そうした「言葉尻をとらえる側」も「言葉尻をとらえられても仕方のないくだらない比喩を使った側」も無駄な時間と労力を空費したというでは同罪だと思います。

 ただ「絶叫デモはテロ行為と変わらない」という比喩は、何とも下手くそなレトリックだということは言えます。いわゆる「官邸周辺デモ」というのは、今回の法案反対にしても、エネルギー関連のものにしても「絶叫」の目的は「同志間の連帯感確認」が主であって、意見の異なる相手に「恐怖や怒り」を生じさせるような効果は期待していないからです。その点では、俗にいう「ヘイトスピーチ」とは異なるわけです。

 それはともかく、では、石破氏の言う「理解者を増やすような議論」というのは、この特定秘密保護法案の場合は、どのような議論なのでしょうか?

 二つのケースに分けてみてはどうでしょう?

 一つは、政府が「安全保障に関する情報」を秘密にすることが経済合理性や人命保護という観点から「プラス」である場合です。仮にそうだとして、つまり政府がそのように判断したからといって、勝手に「では秘密にしよう」とすべきではありません。それでは、恣意的に過ぎます。行政権の肥大を招き、結果的に国政の正当性を毀損する危険すら出てくるからです。

 ここでは「どのような種類の情報は秘密とするのか?」という厳密な定義が必要です。とにかく「重大だ」とか「差し迫っている」とかいうことではなく、もっと具体的にです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台風11号、ベトナムの工業団地に被害 数週間の稼働

ワールド

OPECプラスは増産を=インド石油省高官

ビジネス

FRB、0.5%利下げの強い論拠ある=ダドリー前N

ワールド

北朝鮮の金総書記、ウラン濃縮施設を視察 兵器級核物
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...いつしか「懐かしいだけの、美しい記憶の中の存在」に
  • 4
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 5
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    公的調査では見えてこない、子どもの不登校の本当の…
  • 8
    世界に離散、大富豪も多い...「ユダヤ」とは一体何な…
  • 9
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 10
    「とても健康で幸せそう」茶色いシミや黄ばみが酷評…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 3
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 4
    【現地観戦】「中国代表は警察に通報すべき」「10元…
  • 5
    「令和の米騒動」その真相...「不作のほうが売上高が…
  • 6
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 7
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 8
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 9
    メーガン妃の投資先が「貧困ポルノ」と批判される...…
  • 10
    メーガン妃が自身の国際的影響力について語る...「単…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 10
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story