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冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
「殺害命令」の責任を背負ったオバマとどう向き合ったら良いのか?
日本に来て強く感じるのは、ビンラディン「殺害」の責任を言明したオバマへの冷え切った視線です。核兵器廃絶を叫んだオバマに喝采がされ、似た名前の都市がダジャレのように歓呼を送った日々はまるで嘘であったかのようです。それどころか、オバマ個人への批判というより、アメリカという国への落胆と忌避のような感情すら感じるのです。国際法を無視し、法廷で裁くこともせず「一方的に殺す」国であり、結局オバマも「同じだった」、そんな感覚でしょうか。
日本人の死生観や倫理観からすれば、それは自然なことだと思います。私には勿論理解できるし、ある程度は予想していました。ですが、日本に来てみて、ここまでの反発がある、しかも「これで世界の反米感情が加速する」とか、「ノーベル平和賞は返上すべき」という強い違和感一色であるのにはやはりショックを感じています。
この分では、今後オバマが来日しても「核廃絶のメッセンジャー」として歓迎したり、いつの日か広島で献花をしてくれるのでは、という期待を持ったりということもなくなりそうです。
では、日本人はこれからオバマとどう向き合って行ったら良いのでしょうか?
一つは、オバマに「殺害命令」の責任を背負わせた、アメリカ保守派の屈折を、受け入れるとまでは行かなくても、理解するということです。
今回、アラバマ州での悲惨な竜巻被害や、ミシシッピ川の大洪水に見られるように、アメリカの中西部の自然は過酷です。その過酷な自然と戦って開拓を続けた先人たちの記憶は今でもこの地方の人々の価値観には染み付いているのです。更にその奥には、原住民の殺戮者、奴隷の使用者として断罪を受け、名誉を否定された屈辱の記憶が影を落としています。
そのような彼等には、黒人であり、またイスラム教徒のケニア人を父に持つバラク・オバマという人間はどうしても、自分たちの代表とは認められなかったのです。もっと言えば、オバマという人間が大統領である限り、自分たちは見下されているという感覚、守られていないんだという感覚が消えなかったのです。
人種の和解をスローガンに掲げて当選したオバマという存在そのものが、自分達のアイデンティティーを否定し、踏みにじるものだという理屈抜きの実感とでも言いましょうか、とにかく他でもない合衆国大統領を自分達の代表とは認めることができない、中西部を中心とした「半分のアメリカ」には、そうした本能的な忌避の感覚があったのです。
その忌避の感覚に加えて、リーマンショック以来の不況下に、民主党政権が財政出動を続け、財政赤字を拡大したことへの憎悪と不安感が重なって行きました。サラ・ペイリンに代表されるティーパーティーの運動の原点はそこにありました。そに結果として、アメリカの政界は激しい分裂の季節に入って行ったのです。
オバマの決断は、その結果でした。自らが「殺害命令」の責任を背負い、ある意味では国際社会や国際法に背を向けることで、彼は「もう一つのアメリカ」からも「自分たちの代表」という認知を受けたのです。
バラク・オバマという、誰よりも「国際法上の問題点」を理解していたと思われる人物が全責任を負ってこういうことをやらなくてはならなかった、そこにアメリカの病理があり、オバマの宿命があった、この事件は、そのような構造として評価するしかない、私にはそのように思えます。
もっと言えば、多様性と人権、先進国中最高の出生率を誇る国民性など、アメリカの眩しいまでの明るい面と、暴力性と孤立感に歪んだ闇の部分、その光と闇の双方を抱え込もうとしているオバマという人間の存在感は、とにかくそういう人がいるんだとして、認めるしかなうように思うのです。報道の直後に申し上げた「政治的怪物」という形容は、より正確に言えばそういうことになると思います。
もう一つは、時間を与えてやって欲しいということです。現在のオバマ外交は、ビンラディン殺害を受けて、報復(便乗)テロを防ぎながら、アラブ圏における民主化運動に落とし所を見つけ、併せてハマスの「無害化」を軸とした中東和平の前進ということで手一杯の状況です。また、パキスタン情勢で現状を維持するのも大変です。ですから、長期的な核廃絶といったメッセージ発信の外交に戻るのは、恐らくは2012年の選挙に勝ったその後と考えていると思われます。
オバマは「100パーセントのダークサイド」に行ってしまったように見えるかもしれませんが、とにかく最終的な評価を下す前に時間的猶予を与えて欲しいとも思うのです。
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