コラム

オバマ対議会共和党、とりあえず減税継続問題が焦点

2010年11月03日(水)12時41分

 中間選挙の開票速報というのは、各局がショーアップして中継するのですが、大統領選とは違った面白さがあります。というのは、国政選挙が常に「同時選挙」システムを取るアメリカでは4年に一度の大統領選の時には、同時に上院の3分の1(33または34議席)と下院の全員(現在は435議席)、更には知事の多くが改選されるわけで、大統領選と国政選挙、地方選挙が重なるのです。そうは言っても、社会の関心は大統領選になるので、どうしても番組の中で割かれる時間としては、大統領選がかなりの部分を占めることになります。その点、同じく4年に一度の中間選挙には大統領選が「かぶって来ない」ので、議会総選挙にフォーカスした報道がされます。違った面白さというのはそういうことです。

 残念ながら本稿のアップ時間には、まだ西海岸では投票が続いていますし、東部でも接戦になっている選挙区では結果が出ていません。そんな中、CNNをはじめとする各局は「共和党が下院の過半数を確保へ」という報道をはじめており、焦点は上院に移っています。今のところは、苦戦が伝えられたイリノイ州、コロラド州で民主党は意外に善戦しているようで、もしかすると上院の過半数は守りぬくかもしれません。ネバダ州のリード院内総務が「憤死」しても、52か53という数字が可能性としては残っています。ちなみに、数時間後に結果が出るのを待たずに、今日のエントリでこうした半端な書き方をしているのは、もしかすると再集計になる州があり、結果が出るまで数日から1週間程度かかるかもしれないからです。ペンシルベニア州、ネバダ州、アラスカ州などはかなりの接戦になる可能性があるからです。

 さて、ここからは仮の話です。下院は共和党が「過半数+20プラス」という大勝をする、上院は52議席で民主党がとりあえず過半数を抑えるという結果だったとしましょう。これからの政局はどうなるでしょうか? 前回は、オバマは「クリントン流サバイバル」に走るというような予測を書きましたが、そうした「タフなネゴ」による政治というのは、具体的にはどんな形になるのでしょうか?

 まずその試金石となるのが「ブッシュ減税」の継続問題です。単純化して言えば、ブッシュ大統領の時代に行われた所得税減税は、ほぼ全ての所得の幅の人々を対象にしていました。問題はこの減税が時限立法で、来年の年明けで失効するのです。オバマ大統領と民主党は「中間層の減税は継続するが、年収25万ドル(2000万円)以上の減税は廃止」という案を持っているのですが、選挙前には怖くて強行できず、選挙に負けつつある今となってはやはり難しくなっています。この問題をどう乗り越えるかが当面の焦点です。

 シナリオとしては、(1)与野党激突で結論の出ないまま減税が全て失効し1月から給与の天引き税額が増えて世論の怒りを買う、(2)年収25万ドル以上を除外して減税継続で合意、(3)面倒なので「このままブッシュ減税を暫定的に継続」、の3つがあります。このうち、恐らく議会共和党は(2)は拒否してくるでしょう。ティーパーティーがリードする現在の共和党のムードには「減税への強い意志」があり、ポピュリズムだからといって富裕層への反感で左と連携する可能性はゼロだからです。

 では、(1)になるのかというと、さすがにこれは世論対策としてまずいわけで、例えば大統領としては「こうなったのは共和党のせい」と居直ることもできるわけです。そんなわけで、可能性としては(3)の「とりあえず富裕層も含めて減税継続」という合意を行って、年内の「旧議会」でそれを通しておく、そんな公算も出てきています。仮にそうなれば、とりあえず中間選挙後のギスギスしたムードが、多少なりとも対話を進める雰囲気になるかもしれません。

 実は、この問題はまだいいほうです。(3)という選択肢になれば、強くなった共和党に「それなりに花を持たせる」ことになるからです。また実現不可能な問題でもないですし、景気対策にもなるからです。ですが、共和党が下院を大きく制したからといって、できることは限られているのです。オバマも今回の敗北で縛られていますが、共和党も「フリーハンドを得た」わけでも何でもありません。仮に上院が「プラス3」で民主党支配が続き、大統領は強大な権限をキープするとなると、まだまだ民主党は与党として虎視眈々と復活のきっかけを探していくことになります。その中で、例えば「医療保険改革の全面廃止」などという「ティーパーティー系」が公約した話などは、実現できるはずがありません。

 オバマとしては、そんな「がっぷり四つ」の状態の中で、うまく「柔軟なネゴシエーター」としての自分を売り込むことができれば少しずつ支持率も改善するのではないかと思われます。多数を取った下院では、院内総務のベイナー議員が下院議長という強大な権限を手中に収めるという観測が濃厚です。また、上院ではリード院内総務が落選した場合には、シューマー議員が代わりに院内総務になるという噂も出始めています。仮に、オバマ、ベイナー、シューマーという顔ぶれが揃えば、政治が動くも止まるも彼らのネゴ次第ということになります。その中でオバマが政治を前へ進めることができるかどうか、減税の継続問題が選挙後の政局を占う当面の試金石になりそうです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

バチカンでトランプ氏と防空や制裁を協議、30日停戦

ワールド

豪総選挙は与党が勝利、反トランプ追い風 首相続投は

ビジネス

バークシャー第1四半期、現金保有は過去最高 山火事

ビジネス

バフェット氏、トランプ関税批判 日本の5大商社株「
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1位はアメリカ、2位は意外にも
  • 3
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見...「ペットとの温かい絆」とは言えない事情が
  • 4
    野球ボールより大きい...中国の病院を訪れた女性、「…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    脂肪は自宅で燃やせる...理学療法士が勧める「3つの…
  • 7
    「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAX…
  • 8
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 9
    「すごく変な臭い」「顔がある」道端で発見した「謎…
  • 10
    シャーロット王女とスペイン・レオノール王女は「どち…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 4
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 8
    【クイズ】世界で2番目に「軍事費」が高い国は?...1…
  • 9
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story