コラム

イギリス国民投票に中国共産党が衝撃を受ける理由

2016年06月25日(土)09時10分

<国政上の重要な決断を国民投票で決めたイギリスのEU離脱は、中国人にとって驚きの事件。一方、村民選挙で選ばれた広東省の村長に関して汚職事件が「捏造」される中国では、民主化への道はまだはるかに遠い>

 EU離脱を問うイギリスの国民投票は、中国のネットでも大きな注目を集めた。開票が始まった直後は票数が接近し、その後離脱と残留が何度もリードを奪い合ったが、次第に離脱が残留を引き離し始め、最後は離脱が勝利した。これはわれわれにとってとても意義のある政治的な出来事、そして重大な決断だ。政治家が決断できない状況で、すべてを国民の票決に委ねる......中国人にとって衝撃は大きい。イギリスの首相は直ちに辞任を発表し、演説でこう述べた。彼自身は離脱に反対だが、国民がはっきりと別の道を選択した以上100パーセントその決断を尊重し、離脱手続きがスムーズに進むよう責任を持って努める、と。

 このような政治文化を多くの中国人は理解できない。あるネット上の友人は国民投票が茶番にすぎず、イギリス国民が国民投票で本当にEUを離脱するとは考えてもいなかった。習近平をトップに頂く中国共産党も同じ、あるいは中国国民が真似をして国民投票を要求するのではないか、とビクビクしているはずだ。台湾はどうなるのか? チベットやウイグルは? さらに南モンゴル(編集部注:内モンゴル自治区)、そして香港が次々と独立を要求するのではないか? 中国共産党にとって到底受け入れることのできない事態だ。

 中国で最近この一件と対比できる、ある象徴的事件が起きた。広東省烏坎(ウーカン)村の村長である林祖恋が、共産党が指名したのではなく村民選挙で選ばれた人物であるというだけで汚職事件を捏造され、連れ去った孫を「人質」にテレビで謝罪するよう追い込まれたのだ。

 習近平の「法による統治」がデタラメであることがまた露呈したわけだが、そもそもこんなに小さな村の村長が直接選挙で選ばれることすら容認できないのに、各地域が自分たちの運命を住民投票で決めることを共産党が受け入れるはずがない。中国民主化への道はまだはるかに遠いようだ。

<次ページに中国語原文>

プロフィール

辣椒(ラージャオ、王立銘)

風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

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