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【写真特集】わが子へ継ぐ 写真に宿る祖父の記憶
INVISIBLE INHERITANCE
Photographs by Takuma Tadokoro

もう今にも生まれてきそうやな。安静にしとりよ
<写真に宿る記憶を次世代へと引き継ぐ、写真家・田所拓馬の『写継ぎ(うつしつぎ)』。「金継ぎ」を用いて写し出される、亡き祖父とわが子の「かなわなかった情景」が胸を打つ>
新型コロナウイルス感染防止のための面会制限で、病床の祖父を見舞えたのは1度きりだった。初孫の私に子供が生まれることを伝えた時の、衰弱して会話もままならない祖父がくれた「頑張って」という一言が、今も耳に残る。祖父の死から4カ月後、生まれたての息子に対面した時は、愛しさのあまり、どう触れてよいかも分からないほどだった。もし祖父が、初のひ孫であるこの子に会えたら、なんと言ってくれたのだろう。
すれ違う生と死を体験した私は、日本の伝統的な修繕技法の金継ぎを用いて、亡き祖父と息子の「かなわなかった情景」を写し出すことにした。祖父のデスクにあった思い出深い写真と息子の写真を、手作業で継ぎ合わせる。金継ぎは、割れた器を漆で修復し、金で装飾することで、その痕跡を美へと昇華させる伝統工芸だ。
この作品『写継ぎ(うつしつぎ)』ではおそらく私の世代を最後に処分されてしまう祖父の写真を割れた器に見立て、今を生きる息子の写真を継ぐ。この世に1枚しかない写真が、家族の新たな物語を語り始める。
写真に宿る記憶を次の世代へと長く引き継いでいきたい。
田所拓馬(写真家)
初めての記念撮影やな。よそ見しとらんと前向いて
Photographs by Takuma Tadokoro
撮影:田所拓馬(takuma.tadokoro-Instagram) 1990年徳島県⽣まれ。建築士として建築デザインで培ったものづくりの思考を生かし、2023年から写真作家として活動する。「もの」としての写真表現を探求。手作業により写真に金継ぎを施した作品を制作する。ZOOMS JAPAN 2024、日本広告写真家協会公募展APAアワード2025に入選
【連載21周年】 Newsweek日本版 写真で世界を伝える「Picture Power」
2025年7月29日号掲載
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