Picture Power

【写真特集】コロナと黒人女性と不屈の精神

COVID, BLM AND RESILIENCY

Photographs by SARAH BLESENER

2021年02月06日(土)17時40分

「私たちの物語を伝えるために主があなたを連れてきた」とブレセナー(右)にローミは語った(4月2日)

<コロナ危機のずっと前から不平等や社会の構造的問題は存在していた......パンデミックでそれが際立たされただけだ>

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)は写真界にも多大な影響を与えた。多くの写真家が被写体との距離に悩み、どうしたら人々に力を与えるような写真が撮れるか苦心している。

私もそうした問いを抱え、日々の仕事をこなすのに精いっぱいだった。ブランシェ・ローミを撮り始めたのはその頃だ。彼女は夫のバンス(共に80歳)とニューヨークのブルックリンの一軒家に住み、私はその一室を借りている。

私たちは時折言葉を交わす程度で親しくはなかった。それでも近くの葬儀場に多くの遺体が運び込まれ、警戒を呼び掛けるニュースが流れるなか、高齢者施設に毎日出掛けていく彼女の姿を覚えている。

バージニア州出身のローミは人種隔離制度の下で育ち、より良いチャンスを求めてニューヨークにやって来た。ブルックリンの貧困地区ブッシュウィックに家を買い、今もつましく暮らす。そんな彼女がパンデミックの中で何を考えているのか、80歳の彼女の経験と28歳の私の経験はどう違うのかを探りたかった。

撮影がお互いの生きる力に

4月初旬に一緒に写真を撮ったのが始まり。その後は毎日会い、やがてこの撮影が互いにとって生きる力のようになった。「何かが起きても、いずれ大丈夫になると分かっている」「黒人女性がアメリカでやっていくには強くなくては」と話す彼女の楽観主義が、私の悲壮感を打ち消した。

5月下旬、ジョージ・フロイドの死でBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動が盛り上がったときは「私も若かったらあの中にいた」と話していた。

最終的に、私は予想以上に多くのことをローミから学んだ。例えば、コロナ危機のずっと前から(アメリカでは特に)、ブッシュウィックのような貧しいコミュニティーや年配者たちは孤立し、必要な支援から切り離されていたこと。同時に、彼らが助け合っていること。パンデミックが不平等や社会の構造的問題を生んだのではなく、それらを際立たせたということ。

そして知った―--厳しい環境を生き抜いてきた彼女たちの強さと不屈の精神、立ち直る力を。

―セイラ・ブレセナー

ppcovid02.jpg

イースター(復活祭)前の聖金曜日に窓から外を見るローミ。いつもなら教会のパレードや礼拝、パーティーでにぎやかな週末になるはずが、今年は違う。それでも彼女は晴れ着で近所を散歩し、礼拝はテレビで見た。

ローミはバージニア州出身で、黒人はバスの後方座席に座らなければならないといった人種隔離制度の下で育った。チャンスを求めてニューヨークに来て、まだ危険で貧しかったブルックリンのブッシュウィックに5000ドルで家を買った。ここは今も貧困地区だし、ローミも食料を無料配布するフードパントリーを利用するなど生活は豊かではない。

それでも彼女はコミュニティーを支える存在で、人々に愛されている。「家の正面の窓には自分にとってのヒーローや、このコミュニティー出身で手本となるような人の写真を飾っている。若者たちが通り掛かりに見て、刺激になるように」とローミは言う(4月10日)


ppcovid03.jpg

パンデミックの真っただ中に食料品を買いに行く。「毎日お祈りをいっぱいしている。祈ることで私は健康に過ごせる。母もそれで98歳まで生きた。おかげで前向きにいられるし、転んでも必ず立ち上がれる」(4月3日)


ppcovid04.jpg

夕方の散歩ついでに近所の友人、特にコロナ禍で経済的苦境にある人たちの様子を見に行く(右)。「政府は助けてくれない。でも私たちは慣れているし、自分たちで何とかする。私たちには貧しく育った故の強さがある。水道はなく、熱いお湯もなかった。ここの人たちはたいてい同じような経験をしている。危機の乗り切り方は知っている」(4月12日)


ppcovid05.jpg

ローミとバンスは毎夜、人気クイズ番組『ジェパディー』を見る。お気に入りの番組がパンデミックの不安を忘れさせてくれる。壁に掛かるのは、マーチン・ルーサー・キングとマルコムXの肖像だ。「私は公民権運動に参加した。それは今のBLM運動につながっている。抗議の表明はとても大切で、道のりは長いが行動し続けなければならない」(4月3日)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 2
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    ウクライナ軍ドローン、クリミアのロシア空軍基地に…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story