コラム

Black Lives Matter、日本人が知らないデモ拡大の4つの要因

2020年06月09日(火)17時30分

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首都ワシントンには米軍を配備 JOSHUA ROBERTS-REUTERS

動画を見た人が動きだしたのは、警察への慢性的で普遍的な不満があったからだけではない。今年2月にジョージア州で白人の元警官がジョギング中の黒人男性を車で追い掛け、射殺。3月にはケンタッキー州で、黒人女性が自宅で寝ているところに警官が玄関ドアを破壊して侵入し、射殺──などと、同種の事件が最近相次いでいた。怒りがちょうど高まっていたときに事件が起きた。このタイミングが、3つ目の要因。

差別主義者のセリフで

タイミングとしては、新型コロナ危機と重なったのも大きい。単純に、感染症への不安や巣ごもり生活の疲れの影響もある。4000万人もの新規失業者がいて、デモに参加する時間的余裕のある人が増えたこともある。

だが、それだけではない。昔から黒人の失業率は白人の倍ぐらいで、貧困率も倍以上。白人家庭に比べて、黒人家庭の平均資産額は10分の1ほどだ。サービス業や肉体労働など、テレワークが不可能な仕事に従事する黒人の割合は高く、外出制限が発令されたときに解雇されても「つなぎ」の貯金がない人が非常に多い。

さらに、黒人は交通関連やゴミ収集など感染拡大・外出制限中にも休むことができない「必要不可欠な部門」に従事している割合が白人より高い。特に、医療や介護に従事している割合は50%も高い。その分、感染する確率も高い。しかし、白人に比べて保険加入率が低く、受けられる医療の質が劣る傾向にある。故に、感染した場合の結果もひどくなる。黒人のコロナによる死亡率は白人の2.4倍だ。実は、フロイドもコロナに感染していたことが解剖で分かった。死因はコロナウイルスではなく警官の膝だが。

最後の要因は現職の大統領。ドナルド・トランプはオバマ政権が始めた警察の監視制度や黒人コミュニティーとの関係改善策を廃止したり、コロナ対策を怠ったりして、3つ目の要因に間接的に関わっているのは確か。だが、それよりも事件後の対応がさらに状況を悪化させたと思われる。

トランプも最初は「悲劇的な事件」への捜査を呼び掛けたり、遺族へ理解を示したりしていたが、すぐ強硬姿勢に転じた。まず「When the looting starts, the shooting starts. (略奪が始まると銃撃も始まる)」とツイートした。韻を踏んだキャッチーな表現だが、トランプのオリジナルではない。これは1960年代に、マイアミで暴力的な手段をもって公民権運動に対応した、悪名高い保安官の口癖だった。大統領が「撃つぞ」と威嚇した上で、差別主義者のセリフをパクってもいるのだ。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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