コラム

パックン、「忖度の国」日本のお笑いを本音で語る

2018年05月10日(木)17時59分

一線を越えたときの制裁が

もっときつく感じるのは、それ以外の制約。舞台ではある程度自由にできるが、テレビでは世間の目を常に気にしないといけない。企業も商品も政治家もネタには使えない(野々村竜太郎号泣議員や「このハゲ〜」で有名な豊田真由子議員は例外だったけど)。

アメリカのコメディアンはテレビで、その番組の放送局やその親会社、スポンサーを含めた企業も、商品も、政治家も、さらに芸能人をもどんどんネタにする。これが当たり前。権力者やセレブを突き落とすのが芸人の仕事だとされているから。体制に歯向かう芸風は健全な民主主義のためになる。愛国者こそ権威をこき下ろす! まあ、少し大げさだけど。

欧米の社会風刺的な演劇は数千年前からあるが、現代のコメディーの中でも大きな存在だ。例えばアメリカ一のお笑い番組『サタデー・ナイト・ライブ』は毎週、風刺コントを生放送で見せる。そこで鋭い物まねをされていたホワイトハウスのショーン・スパイサー報道官が解任されたのは、その番組が発端ではないかとささやかれるぐらい影響力が大きい。

しかも風刺は社会や政治の動向を反映するだけではない。「大統領が性的スキャンダルから国民の目をそらすために戦争を起こす」という設定の映画『ウワサの真相 ワグ・ザ・ドッグ』が98年1月に全米公開された。その直後にホワイトハウスの実習生モニカ・ルインスキーとの不適切な関係が発覚したビル・クリントン大統領がスーダン空爆に踏み込んだように、予言と思えるような作品もたまに出る。そんな風刺は確実に「すごい」といえよう。

もちろん、からかいの対象になる人にとっては面白くない。世界でも体制側が抑制に動くケースは多く、今年1月にはスターリンを題材にした風刺映画がロシアで公開禁止になった。北朝鮮の最高指導者・金正恩(キム・ジョンウン)をもてあそぶハリウッド映画への復讐として、14年に北朝鮮は配給元のソニー・ピクチャーズエンタテインメントをサイバー攻撃したとみられる。風刺映画の最高傑作、チャーリー・チャプリンの『独裁者』は40年の発表時に、ナチス・ドイツと宥和を進めようとしていた多くの国で公開禁止になった。

日本ではそんなことはない。風刺系のエンターテインメントの製作も公表も可能。言論の自由は保証されているし、「禁止事項」はどこにも書いていない。それでも、風刺ネタはほとんど出てこない。なぜだろう? それは目に見えない一線を越えたときの制裁が、目に見えるからだ。企業が怒ると広告が消える。政治家が怒ると、同じ政党の政治家も取材に応えないことがある。この仕返しは当の番組だけでなく、その放送局の全番組まで対象になり得る。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米関税率は従来水準へ、一部15%超 中国は現状維持

ワールド

サウジ、緊急対応で原油生産増を計画 米のイラン攻撃

ワールド

ロシア、キューバへの燃料支援の可能性協議─副首相=

ワールド

25年の報道関係者殺害129人、過去最多 ガザでの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村瀬心椛は「トップでなければおかしい」...スノボの謎判定に「怒りの鉄拳」、木俣椋真の1980には「ぼやき」も
  • 2
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された「恐怖の瞬間」映像が話題に
  • 3
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違憲とした「単純な理由」
  • 4
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 5
    2月末に西の空で起こる珍しい天体現象とは? 「チャ…
  • 6
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 7
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 8
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 9
    「バカにされてる」五輪・選手村で提供の「アメリカ…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story