コラム

盛り土は気になるけど、北方領土もね!

2016年09月29日(木)18時00分

Alexei Druzhinin/Kremlin/Sputnik/REUTERS

<北方領土をめぐってロシアのプーチン大統領との首脳会談が開かれることになったが、日本国内で北方領土について議論されているのは聞いたことがない。2島返還はあり? なし? 返還後、ロシア人住民はどうなるの?>(9月に東方経済フォーラムで会談した安倍首相とプーチン大統領)

 北方領土が返還される・・・かも。

 微かながら、なんとなくそんな空気が流れ始めた気がする。なぜなら、12月に安倍首相が、地元山口県にロシアのプーチン大統領を招待し、北方領土を巡る本格的な首脳会談を行うことになったし、双方が過去のやり方に囚われないで新しいアプローチで努力することを誓っているからだ。

 確かに前進する希望的な要素は多い。プーチン大統領と安倍首相は二人とも、長期政権で政治基盤を固めてきたタカ派。つまり、自分の味方である保守派からの批判に怯えずに妥協ができる、国を動かせるリーダーだ。

 さらに、プーチンは柔道好きな親日派。安倍首相と気が合うし、日本からプレゼントされた秋田犬をとても可愛がっているという。この二人がみかん鍋を食べ、獺祭を飲みながらWin-Winを目指して話せば、僕らの島々は返ってくるだろう!

 ――ときどき、こんな趣旨の解説を見る。その気持ちもよくわかる。でも、その読み方はちょっと甘いんじゃないかな。ロシアは北方領土を70年以上支配して、その発展に多大な金と気力をかけてきた。そして、何よりも大事な不凍港や太平洋への航路は、北方領土を支配することで確保できる。相当おいしいみかん鍋じゃないと、プーチンは簡単に北の島々を返してくれないはず。
 
 でも、交渉は難しいけど、希望がある限り成功に向けて僕らも力を合わせよう。そう。一般の国民にもできることがある。それはずばり、議論をすることだ。

【参考記事】ロシアの最新型原潜、極東に配備

 その議論を通して北方領土に対する民意を確認しておくことは、交渉を成立させるために最も有意義だろう。objective(目的)とmeans(手段)を事前に決めておかないと交渉はうまくいかないものだ。交渉人となる安倍首相がテーブルに着く時に、「国民が何を望んでいるのか」と「それを実現させるためにどんな手段が許されるのか」などの「民意」を把握しないと、せっかく合意してもその条件を国民が受け入れない可能性が大きい(TPPのごとく?)。

 ということで、首脳会談がただの鍋パーティーで終わらないように、ここでその議論を始めよう。まずは目的。ちょっと復習になるが、交渉の結果として考えられる主な結果、いや"全ての"結果を挙げておこう:

 1)全土返還。北方領土の全土が日本に返還されること。
 2)部分的返還。北方領土の一部が返還されること。「2島返還案」が有名。全土返還を前提としての部分的返還が考えられる。
 3)所有権放棄。代替条件で日本が北方領土の所有権を放棄し、ロシアの永久支配を求めること。
 4)棚上げ。交渉を先送りし現状を維持すること。
 5)その他

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国、米が中印関係改善を妨害と非難

ワールド

中国、TikTok売却でバランスの取れた解決策望む

ビジネス

SOMPO、農業総合研究所にTOB 1株767円で

ワールド

中国、米国の台湾への武器売却を批判 「戦争の脅威加
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 9
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 10
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 10
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story