コラム

還暦の大江千里が明かす「音楽と僕の『人生100年』計画」

2020年11月14日(土)16時30分

赤ワインはやめても、めがねは不変 SENRI OE

<還暦を迎えた大江氏は、100歳までの人生をどう生きていくのか。日本に拠点を移す予定は?ポップスへの回帰はある? ほっこり優しい大江流・人生コラム>

今の時代、「人生100年」だそうだ。昔は50年だった。今年9月に還暦を迎え、こうして元気に生きていることを思うとあり得なくもないのかもしれない。

なんせこの年齢の感覚といったら20歳を過ぎてもそれほど変わらないなあ、という感じが何十年も続いているのだから、人生とはそんなふうにこの先も過ぎていくのかもしれないとふと思う。

今朝、僕のポップス時代2枚目のアルバム『プレジャー』(1984年)の撮影をしたときの仲間の訃報を知った。僕より5歳ほど兄貴だったな。根っからの少年でプラモデルや文具集めが好きで、撮影でも彼が集めてくれた小物をいっぱい使った。

その後は会うこともなかったのだが、10年前にフェイスブックに「元気?」と友達申請をくれたのだった。いつも元気で大声で笑う人だった。

前回のコラムで、60歳になった自分から過去の自分への言葉を書いた。今回は、この先の人生を生きる僕にメッセージを送ろうと思う。

まずは10年後、70歳になった君へ。まだ20歳の頃の感覚が依然と途切れないらしい。ジャズは今よりうまくなっているし、ポップスも旺盛に作っている。ジャズを知れば知るほど曲のバリエーションが増え、君は愛される音楽をやる喜びに満ちている。

相変わらずブルックリンにいるが、何より君が好きだったワインをやめたのには驚いた。長生きすると心に決めたからだ。一番好きだったポップスのシンガーソングライターを辞めたのが50になる少し前だった。大好きなものを眺めながら、少し先へ進む人生を送っているんだね。

80歳の君はニューヨーク郊外に家を持ち、ブルックリンと行ったり来たりの日々だ。通勤の車窓を眺め風景のデッサンをしたり文章を書いたり、60代で覚えた付け焼き刃の映像も作ったりしている。ぼちぼち旅もしているが、世界は20年前にコロナで様変わりしたからお客さんの前で演奏する機会はめったになくなった。

陽の光を浴びて星を数え、お茶を入れて本を読む。60歳頃までは「毎回が最後の晩餐」なんて吹聴していた君が粗食になり、裏庭で育てた野菜で料理を作る。

絵を毎週1枚描き上げ、それがたまると小さな展覧会をニューヨークやローマでやる。会場を訪れた人々の前でピアノを弾くのが愉しみなのだ。ライブの場所を開拓しに世界へ出始めた頃にコロナ禍になったが、死ぬまでにもう一度各地でリユニオン!が君の口癖だ。

プロフィール

大江千里

ジャズピアニスト。1960年生まれ。1983年にシンガーソングライターとしてデビュー後、2007年末までに18枚のオリジナルアルバムを発表。2008年、愛犬と共に渡米、ニューヨークの音楽大学ニュースクールに留学。2012年、卒業と同時にPND レコーズを設立、6枚のオリジナルジャズアルパムを発表。世界各地でライブ活動を繰り広げている。最新作はトリオ編成の『Hmmm』。2019年9月、Sony Music Masterworksと契約する。著書に『マンハッタンに陽はまた昇る――60歳から始まる青春グラフィティ』(KADOKAWA)ほか。 ニューヨーク・ブルックリン在住。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story