コラム

29歳監督デビュー作にして遺作 中国の孤独な4人の一日の物語『象は静かに座っている』

2019年11月01日(金)16時15分
29歳監督デビュー作にして遺作 中国の孤独な4人の一日の物語『象は静かに座っている』

『象は静かに座っている』 © Ms. CHU Yanhua and Mr. HU Yongzhen

<ベルリン国際映画祭で最優秀新人監督賞などを受賞した中国映画。この映画を完成させた後、29歳でこの世を去った監督が利己主義に満ちた社会を描き出していく......>

ベルリン国際映画祭で最優秀新人監督賞と国際批評家連盟賞をW受賞した中国映画『象は静かに座っている』(18)は、本作を完成させた後、29歳でこの世を去ってしまったフー・ボー監督にとって、234分の長編デビュー作にして遺作となる。

田舎町を舞台に、4人の人物のある一日の物語

本作では、炭鉱業が廃れた田舎町を舞台に、4人の人物のある一日の物語が、緻密な構成と長回しを駆使するスタイルで描き出される。その一日に起きる出来事によって、彼らはそれぞれに窮地に立たされ、追い詰められていく。

裏社会に生きるチェンは、親友の妻を寝取り、それを知った親友がチェンの目の前で窓から身を投げてしまう。少年ブーは、不良のリーダー、シュアイから携帯を盗んだと疑われている友人をかばい、シュアイをあやまって学校の階段から突き落としてしまう。

シングルマザーの母親との諍いが絶えない少女リンは、学校の教師と密会を重ねていたが、それが露見し、大騒ぎになる。娘夫婦から邪魔者扱いされる老人ジンは、愛犬を他の犬に噛み殺され、心の拠り所を失う。

ブーが突き落としたシュアイがチェンの弟だったことから、ブーはチェンに追われるはめになる。以前からリンに想いを寄せていたブーは、秘密を抱えた彼女の行動を探らずにはいられない。そして、ブーと同じ住宅に暮らすジンも、ブーが引き起こしたトラブルに巻き込まれる。そんなふうにして、4人の運命が絡み合っていく。

ジャ・ジャンクーのデビュー作『一瞬の夢』と比較すると興味深い

本作を観ながら筆者が思い出していたのは、20年前のベルリン国際映画祭で最優秀新人監督賞と最優秀アジア映画賞を受賞したジャ・ジャンクーのデビュー作『一瞬の夢』のことだ。この二作品には、日常における登場人物たちの関係や距離を独自の視点から掘り下げることによって、時代や社会を浮き彫りにするという共通点があり、比較してみると興味深い。

『一瞬の夢』


『一瞬の夢』では、改革開放の波が押し寄せる内陸の街を舞台に、スリとして生きる主人公シャオウーと、彼のかつての仲間で実業家に転身したヨンやシャオウーがカラオケ・バーで出会う店員メイメイが対置される。

ヨンやメイメイと彼らを取り巻く人々の距離は明らかに変化している。ヨンは、テレビで取り上げられ、地元の名士になっている。メイメイは離れて暮らす両親への連絡を欠かさないが、両親は彼女が北京で女優の勉強をしていると思い込んでいる。

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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