コラム

手段を選ばず悲惨な映像を売って稼ぐ、報道の怪物を生んだ社会

2015年08月07日(金)17時45分

 脚本も手がけたギルロイは、ルーのキャラクターに格差社会を反映している。社会から疎外されたルーには家族も友達もなく、ネットとテレビ漬けの毎日を送っている。彼は人間に関心がなく、モラルも欠如している。だから盗むことにも抵抗がない。この映画は、ルーが金網を盗み、工場に持ち込むところから始まる。彼は盗品を金に換えるだけでなく、職を得ようとしつこく自分を売り込むが、経営者から「コソ泥は雇わない」と一蹴される。

 ところが、彼が映像を持ち込んだテレビ局ではそんな常識が覆る。ニーナは、その映像が不法侵入で得たものであることを知りながら高く買う。他のナイトクローラーにはそれなりの節度があるのに対して、モラルが欠如したルーは、手段を選ばず冷酷に過激な映像をものにすることができる。だから頭角を現すことになる。

 そして、常識が覆ることは、やがて皮肉な展開だけではすまなくなる。ルーは、ニーナが目の色を変えるような事件に遭遇したとき、一線を越えて警察を欺き、怪物に変貌を遂げる。彼にとって世界とは映像や情報であり、人間は突き詰めれば、いつか自分がものにする映像の素材になるかもしれない駒に過ぎない。だから、ルーを取り巻く人々は、次々と怪物に呑み込まれていくことになる。

《引用文献》●『要塞都市LA』マイク・デイヴィス 村山敏勝・日比野啓訳(青土社)



【映画情報】
『ナイトクローラー』
公開日:2015年8月22日(土) ヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテほか全国で公開。
監督・脚本:ダン・ギルロイ
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCITONS, LLC. ALL RIGHTS

プロフィール

大場正明

評論家。
1957年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒。「CDジャーナル」、「宝島」、「キネマ旬報」などに寄稿。「週刊朝日」の映画星取表を担当中。著書・編著書は『サバービアの憂鬱——アメリカン・ファミリーの光と影』(東京書籍)、『CineLesson15 アメリカ映画主義』(フィルムアート社)、『90年代アメリカ映画100』(芸術新聞社)など。趣味は登山、温泉・霊場巡り、写真。
ホームページ/ブログは、“crisscross”“楽土慢遊”“Into the Wild 2.0”

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