コラム

経済と命の比較がすべてを狂わせる

2020年05月04日(月)14時30分

いいのだ。

それは政策のせいではない。コロナのせいだ。

経済がめちゃくちゃになっても、ああコロナだったから仕方ないね。

しかし、命がひとつでも失われると、特に有名人の命が失われると、命には代えられないという論理が台頭し、すべてのことが許される。非合理であっても、矛盾があっても、妥当でなくとも、そして、命を救うために実際には逆効果であっても、命を守るために行っていることはすべて許されるのだ。

しかし、政府にできることは逆である。

政府が何をしようとコロナに直接働きかけることはできない。それは科学であり、医学であり、そして人々自身の行動、対策である。

政府はそれを促すことしかできない。

そして、それを促す手段としては、日本政府は最弱の手段しか持っていない。強制力のまったくない緊急事態宣言。刀の入っていない鞘だけしかもっていない。鞘で十分国民を脅せると思っているらしいが、万が一、1回目は脅しを信じても、経験すれば、鞘の中に刀は納まっていないことを誰もが知ってしまう。

感染症がくるたび日本は衰退する

一方、経済に対しては、政府は直接働きかけることができる。経済活動を活発にしたり、カネを直接出したり、命に直接かかわらないから、合理的に判断でき、効率的な経済対策は本来は議論でき、実施できる可能性がある。論理的にはある。

ところが、命優先である。命は何ものにも代えがたい。そこで思考停止である。

そして、すべてはコロナのせいにできる。

しかし、政治が命をひとつでも犠牲にして経済を優先すると、政治は徹底的に非難される。役人は非難される。こんなつまらないコラムを書いている人間にも非難が殺到する。

そして、結果がどうなろうと、命を守ろうとしてがんばったんだからしょうがない。そして、失われた命に対しては涙をながして、後は忘れるのである。

政府の政策では、命は直接は救えない。科学と医学を側面的に支援することしかできない。

経済には直接働きかけることができる。

しかし、国民は、前者に全力を尽くし、後者はあきらめることを政治的には許容する。

政府にできないことを要求し、できることはさせない。

それが日本だ。

その結果が、現在の混乱である。

感染症は、21世紀、いや次の10年間に限っても、何度も来る。

そのたびに、日本は衰退していくだろう。

*この記事は「小幡績PhDの行動ファイナンス投資日記」からの転載です

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story