コラム

東芝は悪くない

2017年03月28日(火)16時00分

それにもかかわらず、買収をする。必要のないもの、重荷にしかならないもの、それを買えば後で困るに決まっている。買い物中毒の消費者と同じことだ。

買収に成功するパターンは唯一つ。格上が格下を買収したときだけである。下克上は成立しない。

格上とは何か。歴史、伝統、利益額、時価総額、経営者の力などで上であることである。何よりも、買われた会社の社員が、格上に買われた、と思うことである。

買収とは支配することである。支配するには、支配される側が支配されるのもやむなし、受け入れていることが必要である。そうでない会社を買収しても絶対に成功しない。

外国人経営者が日本企業で成功したのは、ゴーン社長に限られるともいえるが、成功した理由は、日産自動車の社員がゴーンの言うことを聞くしかない、と認識していたからである。

だから、対等合併など、絶対うまくいくはずがないのである。

日本電産など、日本企業で例外的に買収に成功している企業は、明らかにより小さい、より窮地に陥った会社を買っており、社員がもう従うしかない、と腹をくくらざるを得ないという状況で買っているのである。

支配する気も力もない

そもそも企業買収とは、支配することが目的である。支配する気も力もない日本企業が買収に成功することはあり得ないのである。

支配する気も力もない日本企業が海外企業を買収したときの一番の問題点は何か。

とてつもないリスクを抱えることである。

支配することのできない組織ほど、リスクの高いものはない。どうなるか全くわからないのである。

企業とはゴーイングコンサーンといわれる。生きているのである。だから、バブルで不動産投資をした場合よりも遥かにリスクが高いのだ。不動産は諦めて投げ売るか捨てれば終わりだ。しかし、企業は生きているから、捨てることは簡単ではない。捨てるにはコストがかかる。それは買収するときに、ない財布をはたいて買ったカネが無駄になるだけですまない。親が責任を持って、息子が作った借金を払わなければいけないし、潜在的な問題を消すために、将来これ以上かかわりを持たないために、手切れ金をつかませないといけない。

海外企業の買収にはとてつもないリスクがある。そのリスクに気づかないこと、気づいてからもリスクを取り続けたこと、それが東芝の敗因のすべてだ。

東芝をはじめほとんどの日本企業は経営の基本がわかっていない。経営とはリスクをとらずに利益をあげること。それがすべてだ。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルおおむね下落、米景気懸念とFRB

ビジネス

ステーブルコイン普及で自然利子率低下、政策金利に下

ビジネス

米国株式市場=ナスダック下落、与野党協議進展の報で

ビジネス

政策不確実性が最大の懸念、中銀独立やデータ欠如にも
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 8
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 9
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 10
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story