コラム

東芝は悪くない

2017年03月28日(火)16時00分

アート作品の上に映った東芝本社(東京) Toshiyuki Aizawa-REUTERS

<東芝問題が大詰めを迎えようとしている。よくある経営の失敗が、米原子力事業で約1兆円の損失を出す「事件」に発展したのはなぜか。それは不正会計のせいでも東北大震災のせいでもない。利益よりも事業継続を優先し、大きなリスクを取りに走る体質のせいだ。日本の優良大企業に共通するその体質を変える必要がある>

東芝の行く先が見えてきた。

ここまで自重していたが、流れが決まりつつあるので、メディアで議論しても良いだろう。

東芝の問題の本質は何か。会計の利益操作の問題ではない。ましてや経営者の不適切なプレッシャーの問題などではない。

本質的には何も悪いことはしていない。東芝は何も悪くない。ただ、愚かであっただけだ。

東芝問題はたいした問題ではないのである。たいした問題でないのに、問題が大きくなったことが問題なのである。

なぜか。リスクをとりすぎてしまったのである。そのリスクに気づいていなかったこと、そしていまだに理解していないこと、それがすべてである。その理由を考えることが本質であり、我々にとっても重要なのである。

【参考記事】東芝が事実上の解体へ、なぜこうなったのか?

                 ***

私は今世紀に入ったころから東芝を遠くから眺めていた。

最初の感想は、この会社の社長にだけはなりたくない、というものだった。

そのとき(ある授業中だった)私が述べた理由は、あまりに事業範囲が広くて、怖すぎて、社長なんかやったら身が持たない、というものだった。冗談で、10億円でももらえば別だが、と言ったが、すぐその後で、10億円もらって1年無事に過ごしたら、それですぐ辞めて隠居します、とも言った。今言い直すとすれば、10億円もらっても怖くてできない、あるいはゴーン社長よりも遥かにチレンジングな仕事だというところか。

その次の印象は、いい会社だな、というものだった。社員がとても良い。素晴らしい、というよりはみんな普通にいい社員なのだ。社会人野球の決勝では東京ドームの半分を東芝社員が埋め尽くし、ラグビーも秩父宮も国立も4分の1は東芝社員だった。技術もあり、まじめだし、それなりのプライドもある。ある意味、理想的な社員の集まりだった。

日本の大企業の「普通」

三番目の印象は、いつも財務的にピンチの会社だな、ということだった。かつては東芝機械ココム違反事件、アンチダンピング訴訟などだが、それを乗り切ると、20世紀末から21世紀初頭にかけては、株価の下落から買収リスクに悩まされた。あまりに多角化されているため、ファンドが丸ごと買収して、一事業だけ切り離し、売り飛ばして大儲けし、残りをゴミのように捨てるのではないか、という不安に付きまとわれた。

四番目の印象は、日本の優良大企業に典型的なのだが、中間管理職は能力的に優秀だが、それに比して、トップの力が弱く、トップはいつもいい人だが、いい人であるだけだ、という印象だった。そして、中間管理職は勇ましく「うちはトップがだめだ」と言うが、実際はそれを寛容に受け入れており、トップがいまいちだけど、俺らががんばって会社を支えている、という自負で働いている、ということだ。これは東芝に特有なことではなく、すべての日本の優良大企業の最大の特徴だ。世界的にはありえない組織だが、これが日本の優良大企業の「普通」であり、これが様々な問題の背景にある。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ

ワールド

全米で反トランプ氏デモ、「王はいらない」 数百万人

ビジネス

アングル:中国の飲食店がシンガポールに殺到、海外展

ワールド

焦点:なぜ欧州は年金制度の「ブラックホール」と向き
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story