最新記事
シリーズ日本再発見

技能実習制度の適正化が10年後の日本経済を潤す源泉に?

2017年01月20日(金)14時40分
長嶺超輝(ライター)

技能実習への「介護」追加で何が起こるか

 このたび、前述した技能実習法の公布に関連する形で、同じく昨年11月に新たな入管法の改正案が可決、成立している。

 この改正によって、技能実習生の就労期間が最大で4年にまで延長される(途中の一時帰国期間あり)ため、5年間の滞在が公認されるようになる。

 当初、技能実習生の受け入れ対象は17職種だったが、現在では74職種133作業に拡大している(2016年4月現在)。その大半は、農林水産業や工業といった第1次・第2次産業に属する(だから外国人観光客の目には触れにくいのだ)。

 ただ、このたびの入管法改正によって、「介護」というサービス業が技能実習の対象に新規に追加されるのは重大な変更点といえよう。

 介護には作業だけでなくコミュニケーションも大いに求められるため、一定以上の日本語能力を技能実習の条件に課すことになった。さらに、介護が「外国人の行う単純労働」というイメージに繋がらないようにし、日本人の介護職員についても待遇改善の努力を損なわないようにしなければならない、との留保も付されている。

 介護事業はまさに少子高齢化対策の最前線である。政府の狙いどおりにいけば、その現場へ技能実習生が入ることによって、労働力不足が解消され、日本人介護職の待遇も改善され、大勢の高齢者や障害者が安心してサービスを受けられ、ひいては数年後には技能実習生が修得した介護技術が母国で活かされるはずだ。

 そうなれば、日本という国のイメージ向上へと繋がり、大勢の外国人観光客が日本を訪れるチャンスにもなりうる。

【参考記事】「カジノ法案」で日本への観光客は本当に増えるのか

 たとえば10年後、日本社会がそのチャンスを掴みうるとすれば、そのための最初にして最大の鍵は、新しく制定された技能実習法が、あらゆる企業活動の中で遵守されることにある。

 若年層の人口が減り続ける日本社会にとって、現実的に、技能実習生は労働力の貴重な源泉といえる。劣悪な労働環境を放置しておくことが得策であるはずがない。

 たとえ、「日本が培ってきた技能を通じての国際貢献」との建前を前提にしても、企業の労働環境こそ、日本の技能や文化が世界各国へ広まっていく拠点なのだから、外国人にとって居心地のいい職場として整備すべき必要性は同様といえる。

japan_banner500-7.jpg

japan_banner500-6.jpg

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

人民元、米の対中関税60%なら3.1%下落も=バー

ビジネス

国内超長期債、増加幅半減へ 新規制対応にめど=大樹

ワールド

ブリンケン米国務長官の訪中、「歓迎」と中国外務省

ビジネス

連合の春闘賃上げ率、4次集計は5.20% 中小組合
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 3

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 4

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 5

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 6

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 7

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 8

    ヨルダン王女、イランの無人機5機を撃墜して人類への…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中