最新記事
シリーズ日本再発見

技能実習制度の適正化が10年後の日本経済を潤す源泉に?

2017年01月20日(金)14時40分
長嶺超輝(ライター)

技能実習制度「適正化」の新法成立までの経緯

 昨年11月28日、「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」と呼ばれる新法(通称「技能実習法」)が公布された。公布から1年以内に施行される。前述した技能実習制度を適正化するべく作られた法律だ。

 その第3条2項で「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」との建前を改めて確認した上で、第46条~50条で、技能実習を行う企業等に対し、技能実習生への人権侵害行為の禁止を明記した。

●暴行、脅迫、監禁のほか、精神や身体の自由を不当に拘束する手段によって、技能実習生の意思に反して技能実習を行うことの禁止

●技能実習に関する契約の不履行について違約金を定めたり、損害賠償額を予定する契約を結んだりすることの禁止

●貯蓄契約の禁止

●貯蓄金の管理契約の禁止

●パスポートや在留カードを保管することの禁止

●外出や携帯電話の購入をさせないなど、私生活の自由を不当に制限することの禁止

 なぜ、このような新法ができたのか。これまでの経緯を整理してみよう。

 現在の技能実習制度は1993年に始まった。前身は「技能研修制度」である。JICA(国際協力機構)やAOTS(現在の海外産業人材育成協会:HIDA)といった政府関連機関が実施していた。

 実はその当初から、「海外への技能移転」という政府の国際貢献目的と「労働力不足の解消」という実業界の要請との齟齬は存在していた。

 1972年、中国との国交を正常化させた日本は、大勢の中国人研修生を受け入れた。彼らは主に工事現場の作業員として就労した。

 空前の不動産バブルに湧いた1980年代には、技能研修生を上回る人数で不法就労外国人が急増した。それに伴い、外国人の労災が頻発していただけでなく、一部の企業による不当な搾取も闇で横行したようだ。苛烈な長時間労働、極端な低賃金、賃金未払い、借金をさせての束縛、セクハラ、詐欺などに耐えかねて、逃亡する研修生も少なくなかった。

 1990年には出入国管理及び難民認定法(入管法)が改正され、技能研修生など日本での就労を希望する外国人の受け入れ枠が広げられた。しかし、当時は研修期間の3分の1以上を座学に充てなければならず、研修生を早く現場作業に就かせたい事業者の不満が高まっていたという。

 1993年に始まった技能実習制度は、国際貢献の建前に引きずられるだけでなく、国内ビジネスの実態も反映させて、外国人の「労働力」としての側面を公式に認める仕組みとなった。つまり、特定の職種について、研修後に企業と実習生が雇用契約を結べるようにしたのである。

 当初、就労の上限は1年間とされたが、1997年に2年就労に延長された。研修期間と併せて3年間の日本滞在が認められたことになる。

 さらに2010年の入管法改正では、外国人の在留資格として正式に「技能実習」が新設されただけでなく、研修の段階、すなわち入国1年目から労働基準法や最低賃金法など全ての労働法規が適用されるようになった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北・東欧8カ国首脳、EUの防衛強化訴え ロシアは「

ビジネス

米ワーナー、パラマウントの買収案拒否の公算 17日

ビジネス

FRBの追加利下げ、インフレリスク高める可能性=ア

ワールド

トランプ氏支持率39%に低下、経済政策への不満広が
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中