最新記事
シリーズ日本再発見

原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍』...日本「差別」が露わな小説から変わったこと

A New and Improved “Shogun”

2024年03月14日(木)18時02分
ジェフリー・バンティング

それでも小説『将軍』は、作者や読者の偏見の産物だ。これは多くの点で、日本を舞台にした映画『ロスト・イン・トランスレーション』を思い出させる。少なくとも白人の作り手側は日本文化にどっぷりつかった作品になったと思っているのだが、実は東と西の違いにしか目が行っていない。

240319p50_SGN_02.jpg

ブラックソーンが出会う女性、鞠子 COURTESY OF FX NETWORKS

改変がいい効果を生んだ

こうした小説を、FXは現代の視聴者向けに巧みにドラマ化してみせた。原作の魅力を損なうことなく改変し、文化的な細かな点をよく分かっている視聴者の鑑賞にも堪え得る作品に仕上げたのだ。

制作者たちはグローバル化を背景に、東西の差異よりも共通点に目を向けた。ブラックソーンは本ドラマにおいても粗野で無教養な男で、原作同様に異文化に対しては反感を抱くが、早い段階で環境に順応し、周囲の人間を人として理解するようになる。

日本人も、西洋中心主義的な物語を紡ぐための単なる小道具ではなくなった。ブラックソーンと同じような動機や欠点や欲求を持つリアルな人間として描かれている。

その結果、小説で主人公だったブラックソーンは鞠子と共に舞台の袖に追いやられ、虎永がメインキャラクターになっている。原作では話の中心だったブラックソーンと鞠子のロマンスも、扱いが小さくなった。

その代わり、虎永の盤上の駒としての2人の存在が強調され、虎永の策略が物語の核となった。壮大な歴史ドラマの体裁を取った政治スリラーのようで、これがいい効果を生んだ。

日本側の視点を中心に持ってくるに当たっては、言語も重要な役割を果たした。原作と違って本作は、大多数を占める日本人キャストが口にする日本語だけでほぼ話が進む。

派手に金をかけたアメリカ制作の作品であるにもかかわらず(撮影地はカナダのバンクーバー)、根本的にこれは日本のドラマだ。原作と比べて歴史的にも芸術的にも精度の高いものになっている。これまで日本を描いた欧米のどんな映画やドラマより上回っていると言っても、過言ではないだろう。

では、原作ファンはどう思うか。原作の大きな構成要素だった人種差別や女性蔑視、排外主義的な部分は消えた。それでも話の筋は同じであり、視点を変えたことで完成度ははるかに上がっている。

このドラマは原作とは全く違った意味で、大胆かつ感動的な物語になっている。これは創造性や正確さを担保しつつ、題材を過去に求めることは可能だと理解したことによって成し遂げられたものだ。これから小説の映像化が行われるに当たって、問題のある素材を扱う際の道筋を、本作は指し示している。

©2024 The Slate Group

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

再送-トランプ氏、クックFRB理事の辞任を要求 住

ワールド

ロ外相、米欧の安全保障議論けん制 ウクライナ巡り直

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-〔アングル〕ドル高に不足

ビジネス

ノボノルディスク、不可欠でない職種で採用凍結 競争
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家のプールを占拠する「巨大な黒いシルエット」にネット戦慄
  • 2
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 3
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自然に近い」と開発企業
  • 4
    広大な駐車場が一面、墓場に...ヨーロッパの山火事、…
  • 5
    夏の終わりに襲い掛かる「8月病」...心理学のプロが…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    習近平「失脚説」は本当なのか?──「2つのテスト」で…
  • 8
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 9
    【クイズ】沖縄にも生息、人を襲うことも...「最恐の…
  • 10
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 4
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 5
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 6
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 8
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 9
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 10
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中