最新記事
シリーズ日本再発見

「離島観光はそもそもサステナブルじゃない」石垣島の人々の危機感が生んだ日本初の試み

2023年04月25日(火)18時40分
安藤智彦
ANA航空機

ANA99便で使用されたANA Green Jet

<新しい航空燃料を使い、ツアー参加者が航空機での移動時に排出する二酸化炭素を削減する「サステナ島旅ISHIGAKIJIMA」が実施された。環境負荷低減、地産地消......。このツアーは何のために企画されたのか>

3月16日、バイオマスや廃食油、排ガスなどを原料とする新たな航空燃料SAF(Sustainable Aviation Fuel)を使用し、ツアー参加者が航空機での移動時に排出する二酸化炭素を削減する国内初となる試みが、羽田空港―新石垣空港間で実現した。

SAFは二酸化炭素排出量を従来のジェット燃料と比べて約8割も低減する新燃料だ。

ANA Green Jetの機体の一部には、空気抵抗を減らし燃費を改善させるサメ肌加工フィルムを貼付したほか、ヴィーガンレザーを使用したヘッドレストカバーを客席に採用するなど、SDGsを意識したマイナーチェンジが施されている。

これは、沖縄県石垣市が主催したサステナブルツーリズム「サステナ島旅ISHIGAKIJIMA」のプランに含まれた試みでもあった。

――いや、ただプランに含まれたのではなく、離島旅のサステナビリティを改めて考えると、欠かせない1つのピースだったと言えそうだ。

サステナ島旅は、石垣市が2021年から10年計画で進める「第2次観光基本計画」のモデルケースの1つとして実践に移したもので、3月16日から3泊4日、もしくは4泊5日で開催され、30人ほどが参加した。

石垣島の雄大な自然環境や歴史文化を未来につなげるため、カーボンニュートラルや環境負荷の低減、地産地消などを意識したサステナブルツアーとなっている。

「単に理念を掲げたり理想論を議論したりするのではなく、10年後も視野に入れたサステナブルな観光のあり方を提示したかった」と、石垣市企画部観光文化課の玻座間(はざま)保幸課長は振り返る。

日本国内でも、2030年までに航空燃料使用量の10%をSAFに置き換える目標が政府によって設定されている。

japan20230425_ishigaki_2.jpg

2021年から運用されている、石垣市役所の新庁舎。沖縄の伝統的な「赤瓦屋根」をモチーフに、建築家・隈研吾氏が設計を担当 Photo: Tomohiko Ando

「いずれ立ち行かなくなるという危機感があった」

「サステナ島旅ISHIGAKIJIMA」では、冒頭のSAFを利用した航空機に加え、石垣市に生産拠点を構えるユーグレナ社のバイオ燃料を使用した観光バスで島内を移動する。

漂着ゴミの現状を考えるとともに海の美しさを未来につなげるためのビーチクリーン活動、循環型農業で育てた地産地消ブランド豚を使用したディナー&伝統民謡ライブなど、島の自然・文化を体験することができるアクティビティが用意された。

参加者に対し、島の現状を理解しながら「これから」を考えてもらう仕掛けだ。

東京から約2000キロ、大阪から約1600キロ離れた石垣島。

「そもそも、航空機しか交通手段のない離島に観光で訪れること自体が、サステナブルと逆行してるじゃないか、という視点があった。それだけに、SAFを利用した航空便は『サステナ島旅ISHIGAKIJIMA』としてマストだった」(玻座間課長)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中