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アメコミが描くドラゴンボールの「その先」

Not Manga But an American Comic

2019年07月12日(金)16時45分
モ・モズチ

一般にコミックの物語進行では、作者の役割が圧倒的に大きく、作画担当者は作者からの情報に沿って粛々と絵を描くことが多い。だが、オシオとシターソンはコラボレーションに徹し、オシオの描くイラストが、キャラクター設定に新たな着想をもたらすこともあった。

「キャラクターの髪の色から感情の爆発まで全てのイラストが、彼らが歩んできた人生や経験を示唆している」とシターソンは語る。「だから彼が興味深くて美しいイラストを描いてくれている限り、私はその全てのピースを1つにまとめる方法を考えればいいだけだった」

視覚的なストーリーテリングは、物語の展開も大いに助けている。『ノー・ワン』は主人公たちが旅をする物語だから、登場人物がセリフの形で説明をしなくても、絵を見れば状況が分かる作品にしやすかった。

「一種のエコロジー感覚をビジュアルに織り込んだ」と、シターソンは言う。「物語の舞台は、文明に征服される前の地球だ。美しい自然が数多く描かれ、手付かずの野生に満ちた世界だ」

アメコミの伝統も大切に

オシオは『ノー・ワン』のために、独特の鮮やかな色調を選んだ。それは『ドラゴンボール』に敬意を払う意味もある。シターソンが『ドラゴンボールZ』の巧みなストーリーテリングをまねたいと思ったように、オシオは『Z』の奇想天外なキャラクターがもたらすスリルを再現したいと考えている。

「『Z』を初めて見たときは、全てが新鮮でユニークで感動した。カプセルコーポレーションをはじめ、猫が仙人で、宇宙人が神で、犬が国王だなど、それまで私が知っていたコミックとは大違いだった」とオシオは振り返る。「私も今回、同じような意外性を生み出したい」

「私たちは『ドラゴンボール』などの日本の漫画が大好きだが、アメコミの伝統の担い手でもある」とシターソンは言う。「フィコの色使いは、それを大胆に宣言している」

「『ノー・ワン』は、『ドラゴンボール』などのバトル漫画の最高の部分を取り入れつつ、それを漫画とは異なるフォーマットにまとめている。フルカラーのハラハラするアメコミだ」とシターソンは言う。「誰もが待ち望んでいたコミックだ」

<本誌2019年7月2日号掲載>

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