コラム

微博は中国を変える、のか

2012年12月18日(火)15時58分

 また微博(ウェイボー)だ。

 11月に中国共産党の新しい総書記に就任した習近平は12月初め、広東省深圳市を電撃的に訪れた。深センは言うまでもなく、いまから20年前の92年に「改革開放の総設計師」鄧小平が訪問し、89年の天安門事件後に停滞していた中国経済が再び開放路線に大きく舵を切るきっかけになった場所である。共産党幹部の行動予定は通常、極秘中の極秘で外に漏れることはない。ところが深圳を含む南方視察中の習の行動は、マイクロブログ新浪微博のあるアカウントによって、逐一フォローされていた。

 この謎のアカウント名は「@学習粉絲団(簡体字では学习粉丝团)」。「粉絲」はもともとはるさめの意味で、微博ではフォロワーを指す。「学習」は日本語と同じ「学習」の意味があるが、「習に学ぶ」という意味にかけているのだろう。この「学習粉絲団」は視察期間中、黒塗りの外車でなく小型バスで視察先を訪れ、ノーネクタイ姿で地方幹部と話し合う気さくな習の姿に密着。それだけでなく、今や13億中国のトップリーダーになった習を「平平(ピンピン)」という愛称で呼び、その幼少期や家族との珍しい写真を惜し気なく公開している。

 13億中国のトップになった習近平に密着し、その身辺情報をネットにアップできるアカウント主はおそらく習の最側近だろう。最側近であるとすれば、まちがいなく習の意向を受けている。このアカウントは、習そのものと言っていいかもしれない。

 3億を超えた微博の存在感と影響力は、中国人にとって日に日に大きくなっている。ただ2年前に中東の独裁体制を打倒したツイッタ―やフェイスブックのような存在になりえるのかと聞かれると、はなはだ心許ない。「ジャスミン革命」が中国に伝播しなかった理由は単純ではないが、当局がネットを強く規制していることがその大きな原因の1つであるのは間違いない。

「去年の高速鉄道事故では、現場で中国人記者たちが微博を使って鉄道当局が車両を埋めているのを暴いたじゃないか」と思う人がいるかもしれない。確かに今年2月に起きた重慶市副市長のアメリカ総領事館駆け込み事件でも、四川省成都市の総領事館周辺を警察車両が取り囲んでいる様子を微博ユーザーたちが「直播(生中継)」した。その後失脚した元重慶市トップ薄煕来に関する書き込みも自由だった。

 中国当局は微博を規制しているのか、していないのか。この矛盾について、中国人ブロガーの安替(アンティ)が『Newsweek日本版ペイパーバックス 中国超入門』の中で次のように解説している。


 その気になれば中央政府は、3億人のマイクロブロガーを動員し、汚職官僚や傲慢な政治家を批判するよう仕向けることができる。的確な、めったに得られない言論の自由の機会を市民に与えて。

 それは新しいテクノロジーだが、古臭いテクニックだ。これはまさに、文化大革命で民衆を動員し、中国全土で「敵」を破壊し尽くした毛沢東と同じテクニックなのである。

 微博は中央政府の政争の道具と化している、というのが安替の指摘だ。高速鉄道事故を起こした鉄道省は「独立王国」として中央政府に歯向かう厄介な存在になっていた。胡錦濤・温家宝体制に公然と挑戦していた薄煕来を含めて、中央政府は自分たちの政敵を微博という新たな「大衆運動」によって葬り去った――もしそうなら、微博は少なくとも現在の共産党体制を変えることは未来永劫できないはずだ。

 弊誌リレーコラムTokyo Eyeの執筆者で歌舞伎町案内人の李小牧氏が先日、在日中国人ジャーナリスト蔡成平氏との共著『中国を変えた最強メディア 微博(ウェイボー)の衝撃』を出版した。筆者は編集者として李さんのコラムを5年間担当してきたが、この本の前書きで書かれているとおり、ほぼオフライン一辺倒だった李さんの生活は、微博と出会ってから大きく変わった。簡単に言うと寝ても覚めても微博、微博なのだ。フォロワー数は今や8万人。経営する新宿・歌舞伎町の湖南菜館でもお客さんの相手をしていない時はいつもiPhoneで微博に書き込んでいる。

photo.jpg

「@歌舞伎町案内人李小牧」で書き込んでいるネタには歌舞伎町の風俗やヤクザの話もあるのだが、最近多いのは政治ネタ。それも日本政治だ。民主主義がない中国人の眼に選挙はうらやましく映るらしく、今回の衆院選の書き込みに対する「転発(リツイート)」や「評論(本家ツイッタ―にはないフェイスブックを真似したコメント機能だ)」は多いもので千単位になっていた。

「確かに微博は当局に検閲されている。でも、『大字報(壁新聞)』しかなかった中国人が自分の意見を大々的に発表できる場ができたことは重要だ」というのが李さんの微博に対する評価だ。確かに、微博は既に中国当局が簡単につぶせないほど大きな存在に成長している。中国の新トップ側近とみられる人物が、トップの情報を積極的に流そうとしていることでもそれはよく分かる。

 李さんは微博の検閲を突破する有力なテクニックをもっている。それは写真だ。微博を運営する会社はNGワードを自動検閲しているが、どうやら写真は実際に人の眼で1つ1つ確認するしか方法がないらしい。この盲点を突いて、李さんはしょっちゅう日本のテレビニュースの画面をデジタルカメラで撮って、微博にアップしている。日本のニュース番組には漢字でテロップが出るから、中国人にもだいたい何が書いてあるかは分かる。李さんはこの方法で、今年春に起きた盲目の人権活動家、陳光誠の逃亡事件を中国大陸のネットユーザーにさかんに紹介していた(この件については、いつにない猛スピードで当局に削除されたもの事実だが)。李さんは『微博の衝撃』の中でこう書いている。


 残念ながら中国人の大多数は海外に出たことすらなく、外の世界というものに無知である。そこで微博上で日本という国や、日本人の生活について、どんどん発信していくことで、中国人に変化が起きるはずだ。

 安替の言うとおり、共産党のやり方を見れば微博に楽観することは到底できない。ただ微博が共産党が無視できないほど大きな存在になったのも事実だ。微博で起きることを「しょせん検閲下」と見下し、一方でとっくに恐竜のような存在になった人民日報や新華社ばかりをありがたがっていては、到底中国は理解できず、その変化の兆候も読み取れないだろう。

――編集部・長岡義博(@nagaoka1969)

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、イラン新指導者モジタバ師ら巡る情報提供に最大1

ワールド

トランプ氏、イラン濃縮ウランのロシア移送案拒否 プ

ビジネス

米国株式市場=続落、ダウ約120ドル安 原油高でイ

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、有事の買い続き159円台後
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 2
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切りは常軌を逸している」その怒りの理由
  • 3
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド太平洋防衛
  • 4
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    『ある日、家族が死刑囚になって』を考えるヒントに…
  • 7
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 8
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 9
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 10
    謎すぎる...戦争嫌いのMAGAがなぜイラン攻撃を支持す…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 7
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    ショーン・ペンは黙らない――「ウクライナへの裏切り…
  • 10
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story