コラム

刑務所事情は社会の映し鏡

2011年08月05日(金)23時12分


 その国がかかえる病巣や、社会が共有する価値観が如実に表れる場所──その1つが刑務所なのかもしれない。

 象徴的なのが、劣悪な環境下で政治犯に過酷な労働を強いる北朝鮮の収容所。麻薬取り締まりを強化しているメキシコでは、すでに満杯だった刑務所がパンク状態に陥り、囚人の暴動が後を絶たない。インドネシアでは刑務官の汚職が蔓延しているせいで、受刑者が獄中で性交渉をもったり、薬物を手に入れることが可能。そのため、服役中にエイズウイルスに感染し、社会復帰後に感染を拡大してしまうケースが非常に多いという。
 
 脱獄そのものを罪に問う法律が整備されていないために、ヘリコプターを使ったハリウッド映画さながらの脱獄劇が度々繰り返されてきたベルギーのようなケースもある(背景には、人間は自由を求める存在であり、脱走したくなるのは当然だという思想があるらしい)。また、人口当たりの受刑者数が世界で際立って高いアメリカでは、各州の財政難のあおりを受けて民間刑務所への委託が進んでいるが、「運営費を安く抑えるほど儲かる」というビジネスの論理と、服役囚の更生支援を両立させるのは難しく、刑務所内の治安は驚くほど悪く、再犯率も高いという。

 一方、自由で快適な環境を提供し、受刑者に寄り添うことこそ、更生を促す最善の道だというスタンスを貫いているノルウェーのような国もある。本誌8月10日/17日号(夏季合併号)の「凶悪テロ犯を待つ獄中の『楽園』」では、ノルウェーの刑務所内を撮影した7枚の写真を掲載している。殺人犯とレイプ犯を収容する最厳重警備の刑務所だというが、内部の様子はまさに「楽園」という表現がぴったり。高級ビジネスホテルのようなテレビつきの独房に、バンド活動ができる本格的な音楽スタジオ、料理を楽しめる共用キッチンやリビングルームまで完備。威圧感を与えないよう看守は武器を持ち歩かず、囚人たちも私服で寛いでいる。先月、爆弾テロと銃乱射によって76人の命を奪ったアンネシュ・ベーリング・ブレイビクも、有罪が確定すれば、こうした環境下で社会復帰をめざすことになると聞くと複雑な気持ちになるが、再犯率の低さを考えれば、凶悪犯にも更生のチャンスを与えるノルウェー方式には意義があるのだろうと思う。
 
  8月10日/17日号では他にも、今のうちに訪れなければ消滅してしまうかもしれない世界各地の「楽園」を紹介するトラベルガイドも必見。夏休みに海外旅行の予定がない人も是非、美しい写真に癒されながら、次の休暇の計画を立ててみては?
  
 ──編集部・井口景子

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米地裁、FRB議長の召喚状差し止めの判断維持 検察

ワールド

イラン上空で米戦闘機撃墜、乗員1人を救助 対イラン

ビジネス

米3月雇用者数17.8万人増、過去15カ月で最多 

ワールド

米政権、「脱獄不能」アルカトラズ監獄再開へ予算 ア
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    中国は「アカデミズムの支配」を狙っている? 学術誌…
  • 8
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 9
    60年前に根絶した「肉食バエ」が再びアメリカに迫る.…
  • 10
    満を持して行われたトランプの演説は「期待外れ」...…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 8
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story