コラム

「中国に当面大地震なし」の赤っ恥

2010年04月15日(木)08時04分

 中国青海省玉樹チベット族自治州で14日朝に起きたM7・1の大地震の死者が400人を超えた。

 地震が発生した午前7時49分は、中国ではちょうど学校の授業が始まる時間帯。いやがおうでも、08年5月の四川大地震で「おから建築」校舎の下敷きになった子どもたちのことが思い起こされる。

 地元の赤十字の責任者は「70%の校舎が倒壊した」と発言しているらしい。データの根拠ははっきりしないが、GDPがチベット自治区に次いで下から2番目という青海省の貧しさを考えれば、あり得ない数字ではない。

 救援活動への支援を呼びかける記事があふれる一方で、中国のウェブサイトに残された1カ月前の発表に注目が集まりつつある。中国政府の地震局が3月8日にアップした「全地球的に地震が頻発する最近の状況についての専門家の分析」という記事だ。

(なぜか)匿名の「地震専門家」が一問一答形式で、ハイチやチリなど最近世界で大地震が続いた背景について、以下のように説明している。


21世紀に入ってから、20世紀末の数十年より明らかに震度8以上の地震が増えている。これは20世紀前半に大地震が多発した現象と類似している。いわゆる『百年周期説』の特徴だ。当面、全地球的に大地震の多発が続く可能性がある。その多くは環太平洋地震帯で起きるだろう。(中略)現在中国大陸の地震活動は平均的なレベルにある。


 地震局として言い切っているわけないのだが、「行間」を読むと「中国で当面大地震は起きない」と読めてしまう。で、案の定行間を読んだ複数の中国メディアが地震局の発表の直後、「我が国では当面、破壊的な地震は起きない」という記事を書いた

 検索エンジン「百度」の掲示板での議論がどうなっているか、と思って「地震局」と入力すると「法律に基づき表示不可」。四川大地震のときもそうだったが、「なぜ予測できなかったのか」という批判がネットで始まっており、当局も敏感になっているようだ。

 四川大地震の記憶は中国人にとってまだ生々しい。ハイチ、チリと大地震が続いたことで、中国人は少しでも「中国に大地震は起きない」と安心したかったはずだ。今となっては赤っ恥な地震局の発表とメディアの記事が生まれたのには、そんな背景があると思う。

――編集部・長岡義博

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、第3四半期は黒字回復 訴訟引当金戻し入れ

ビジネス

JDI、中国安徽省の工場立ち上げで最終契約に至らず

ビジネス

ボルボ・カーズの第3四半期、利益予想上回る 通年見

ビジネス

午後3時のドルは152円前半、「トランプトレード」
MAGAZINE
特集:米大統領選 イスラエルリスク
特集:米大統領選 イスラエルリスク
2024年10月29日号(10/22発売)

イスラエル支持でカマラ・ハリスが失う「イスラム教徒票」が大統領選の勝負を分ける

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」ものはどれ?
  • 3
    リアリストが日本被団協のノーベル平和賞受賞に思うこと
  • 4
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 5
    トルコの古代遺跡に「ペルセウス座流星群」が降り注ぐ
  • 6
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 7
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 8
    中国経済が失速しても世界経済の底は抜けない
  • 9
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 10
    「ハリスがバイデンにクーデター」「ライオンのトレ…
  • 1
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 2
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の北朝鮮兵による「ブリヤート特別大隊」を待つ激戦地
  • 3
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア兵の正面に「竜の歯」 夜間に何者かが設置か(クルスク州)
  • 4
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
  • 5
    目撃された真っ白な「謎のキツネ」? 専門家も驚くそ…
  • 6
    ウクライナ兵捕虜を処刑し始めたロシア軍。怖がらせ…
  • 7
    逃げ場はゼロ...ロシア軍の演習場を襲うウクライナ「…
  • 8
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 9
    裁判沙汰になった300年前の沈没船、残骸発見→最新調…
  • 10
    北朝鮮を訪問したプーチン、金正恩の隣で「ものすご…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    「地球が作り得る最大のハリケーン」が間もなくフロリダ上陸、「避難しなければ死ぬ」レベル
  • 3
    秋の夜長に...「紫金山・アトラス彗星」が8万年ぶりに大接近、肉眼でも観測可能
  • 4
    死亡リスクはロシア民族兵の4倍...ロシア軍に参加の…
  • 5
    大破した車の写真も...FPVドローンから逃げるロシア…
  • 6
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 7
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 8
    エジプト「叫ぶ女性ミイラ」の謎解明...最新技術が明…
  • 9
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 10
    韓国著作権団体、ノーベル賞受賞の韓江に教科書掲載料…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story