コラム

海外ドラマ『24』打ち切り決定

2010年03月29日(月)02時22分

 3月26日、FOXの人気テレビドラマ『24』が現在アメリカで放送中のシーズン8で終了することが発表された。2001年に放送開始以来、FOXの看板番組の一つとして揺るぎないポジションを保っていた同番組だが、ついに5月24日放送の最終回でシリーズの幕を閉じることになった。

 番組の主役で、エグゼクティブ・プロデューサーも務めるキーファー・サザーランドは同日コメントを発表し、「自分にとっては生涯忘れられない役になった」と語った。「ジャック・バウアーという役を演じられたのは、世界中のファンのおかげ。感謝の気持ちでいっぱいだ」

 ファンにしてみれば、こんな嬉しい言葉も耳に入らないくらいショックだろうが、アメリカのエンタメ系のメディアでは数カ月前から打ち切りの噂が飛び交っていた。シーズン8までは、すでに06年時点で製作が決まっていたが、シーズン9以降についてはずっと宙に浮いた状態だった。それが今年に入ると、ハワード・ゴードンやアレックス・ガンサなど『24』の製作チームのキーパーソンたちが新しいドラマ企画に関わるといった話が報じられたり、映画化がらみの動きが出てきたり、番組終了を示唆するような材料が目立ち始めた。

 しかしつい最近までは、打ち切らずに他のテレビ局で放送を続けるのではないかとの見方もあった。業界記事などでは某大手ネットワーク局の名前も有力候補に上がっていたが、結局は折り合いがつかなかったようだ。

『24』は、1日24時間の出来事を24話に分けてリアルタイムで描くという斬新な発想や、テロの脅威と戦うジャック・バウアーという不屈のヒーロー像がポスト9.11時代のアメリカ人視聴者を魅了し、一大ブームを巻き起こした。06年にはシーズン5で、エミー賞テレビドラマ部門の作品賞と主演男優賞に輝いた。

 しかしシーズンを重ねるごとにストーリー展開のマンネリ感が否めなくなり、視聴率もシーズン5を境にじわじわと低下(今シーズンに入ってからは大幅に下落した)。その反面、製作コストは映画も顔負けの高さだ。ド派手なアクションシーンを数多く撮影しなければならないうえ、出演者の数も多い。米TVガイド誌によれば、主演のサザーランドだけでも1話あたりのギャラは55万ドル(アメリカのテレビドラマ俳優ではトップ)。1シーズンで1300万ドル近くかかる計算になる。

 これでは契約更新を躊躇しても無理はない。昨年8月にはFOXのある幹部がニューヨーク・ポスト紙に対し、「最終的には経営者が判断することになる。ひとつのシリーズを製作するのに莫大な費用がかかるドラマだから」と語った。

 しかしシリーズが終了しても、ジャックに会えなくなるわけではなさそうだ。映画化の話は何年も前からあったが、テレビのシリーズが続いている間は手をつけられなかった。毎年1シーズンの撮影に10カ月近くかかるため、映画を同時に撮影するのはほぼ不可能だったからだ。

 テレビシリーズが終わるとなれば、映画化に向けた動きが加速するだろう。すでに脚本はビリー・レイ(『消されたヘッドライン』)が手がけると言われているし、サザーランドも「ハワード・ゴードンも私も『24』の映画版を作ることを楽しみにしている」と語っている。

 ジャックがひと休みできるのはまだまだ先になりそうだ。

――編集部・佐伯直美

このブログの他の記事も読む

プロフィール

ニューズウィーク日本版編集部

ニューズウィーク日本版は1986年に創刊。世界情勢からビジネス、カルチャーまで、日本メディアにはないワールドワイドな視点でニュースを読み解きます。編集部ブログでは編集部員の声をお届けします。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:中国の再利用型無人宇宙船、軍事転用に警戒

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story