コラム

岸田政権が資金を多く提供した上位5カ国はどこか──「バラまき外交」批判を考える

2024年01月31日(水)16時15分
岸田首相

ウクライナのゼレンスキー大統領と会談した岸田文雄首相(2023年3月21日、キーウ) paparazzza-Shutterstock

<対象国の選定には日本の利益や目的が色濃く反映されている>


・2023年に日本政府が提供した資金のうち「あげた」のは10%程度で、政府歳出の0.2%ほどしかない。

・外国に提供した資金の大半は貸付つまりローンで、相手国は利子をつけて日本に返済することになるため、少なくとも「バラまき」とは呼べない。

・さらに、2023年の日本政府による資金提供を国別にみると、その上位5カ国には日本へのリターンが期待される国が多く、この意味でも単なる浪費といえない。

岸田政権を擁護するつもりはないが

物価上昇は続き、一方で多くの業種・職種ではそれに見合うほど給与が増えない。それでも増税論議は活発で、おまけに自民党の「パー券」問題の結末に多くの人は納得していない。

こうしたなかで岸田政権が海外への資金協力を増やすことには、SNSを中心に批判が噴出してきた。なかには「大国ぶって外遊で金を配る」といったものもある。

ただし、「バラまき外交」批判のなかには岸田政権の不人気に便乗したような、あるいは断片的な情報に基づいて、生活不満をただぶつけるような"批判のための批判"とも映るものが珍しくない。

資金提供総額上位5カ国(億円)

岸田政権を擁護するつもりは毛頭ないが、生産性の乏しい批判によって外交にブレーキがかかるのはもっと忍びない。

筆者は以前にもこのテーマをより詳細に取り上げたが、今回は金額の上位5カ国(2023年)をピックアップすることで、よりコンパクトにまとめてみよう。

上の図は昨年の資金提供先上位5カ国を、一昨年、そしてコロナ感染拡大の前年で、安倍政権末期の2019年のデータとの比較で示している。

資金提供先上位5カ国マップ

第1位 バングラデシュ

2023年の第1位はバングラデシュだったといわれて「ああなるほど」と納得する人は、かなりの国際情勢通だろう。それほど日本ではマイナーな国ともいえるバングラデシュに、日本政府は昨年約5,000億円提供した。

その金額の8割近くを占めるのが、同国東部のチョットグラム(チッタゴン)とコックスバザールを結ぶ高速道路と、マタバリの火力発電所の建設プロジェクトだ。

こうした巨大インフラ建設が相次ぐバングラデシュは、国際的な物流拠点として注目度の高いエリアにある。国境をまたいだミャンマー西部では、中国やインドがそれぞれ巨大港湾の整備を進めている。

バングラデシュ,チョットグラム(チッタゴン),コックスバザールマップ

バングラデシュの隣国インドは昨年「インド-中東-欧州経済回廊(IMEC)」構想を本格的にスタートさせた。これが実現すれば、ソマリア沖、紅海、スエズ運河周辺など治安が極度に悪化している海域を迂回してアジアとヨーロッパを結ぶことが期待されている。

日本政府はこの構想に強い関心をもっている。バングラデシュ東部からインドへつながるルート構築は、いわばIMECを東方に延伸するもので、それは「一帯一路」を迂回したサプライチェーンを構築する一環ともいえる。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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