コラム

岸田政権が資金を多く提供した上位5カ国はどこか──「バラまき外交」批判を考える

2024年01月31日(水)16時15分

第2位 イラク

第2位は中東のイラクだ。提供額の8割以上に当たる約2,030億円は、バスラ製油所の改良計画に当てられている。

BPによるとイラクの2021年の原油生産量は約2億トンで世界第5位だった。

しかし、イラクでは設備の老朽化や治安悪化などで原油生産にブレーキがかかっている。つまり、そのポテンシャルは現状より大きいと見込まれている。

一方、日本の原油輸入に占めるイラクの割合は現在0.1%にとどまる。裏を返せば、イラクの石油生産へのテコ入れは、資源市場が不安定ななかでリスク分散を図ることにもなる。

第3位 インドネシア

第3位のインドネシアには約2,000億円が提供されたが、このうち1,300億円程度は首都ジャカルタ周辺での道路、鉄道整備などに、436億円はアチェなどでの発電設備の拡充にあてられた。

もともとインドネシアは冷戦時代から日本が東南アジアのなかでも特にテコ入れしてきた国の一つで、近年では日中間の高速鉄道受注レースの舞台にもなった。

東南アジア最大の経済規模と人口を抱えるインドネシアは、2026年にGDPでロシアを抜いて世界6位になるという試算もある。

この国でのインフラ建設に高い優先順位をつけられたことは、日本政府が東南アジアで中国とのレースを重視していることの表れともいえる。

第4位 インド

第4位のインド向けのうち約75%は、パトナでのメトロ建設などのための1,268億円で占められる。

これまでに触れた「中国を意識した資金協力」という意味では、インド向けの資金協力はその典型といえる。

インドは2021年にイギリスを抜いてGDP世界第5位になったが、日本との取引額もこの10年間でほぼ倍増している。

中国に代わる有望な投資対象の一つとして、さらに日本と同様に中国の海洋進出を警戒する点でも、日本政府が高い優先順位をつけて資金協力を行うことは不思議ではない。

第5位 ウクライナ

第5位のウクライナについては多言を要しないだろう。

2022年2月に始まったロシアによる軍事侵攻の後、アメリカはじめ各国から支援が集まったが、昨年10月までの提供額で日本は第5位である。

日本政府は2023年、復旧、人道支援などに793億ドルを提供した。

外国に「あげた」のは歳出の0.2%程度

以上の上位5カ国に提供された金額の合計は、2023年の総額の7割以上を占める。

2023年資金供与総額上位5カ国における贈与(億円)

その多くは、サプライチェーン構築、資源の調達、中国への対抗などで重要度の高い国だ。つけ加えれば、インフラ建設などには多くの日本企業も参画している。

つまり、対象国の選定には日本自身の利益や目的が色濃く反映されている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル、シリア大統領官邸付近を攻撃 少数派保護

ワールド

ライアンエア、米関税で航空機価格上昇ならボーイング

ワールド

米、複数ウイルス株対応の万能型ワクチン開発へ

ワールド

ジャクソン米最高裁判事、トランプ大統領の裁判官攻撃
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 8
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story