コラム

中国はロシアに協力するふりをしつつ裏切るか──中央アジア争奪をめぐる暗闘

2023年06月12日(月)14時20分
習近平とプーチン

クレムリンで挨拶する習近平国家主席とプーチン大統領(2023年3月21日) Sputnik/Pavel Byrkin/Kremlin via REUTERS

<中央アジアはロシアの縄張りとされてきたが、もともと中国にとっても関心の高い地域だった。中国は人目をひきにくいタイミングで重大なアクションを起こす傾向があり、今回の中央アジア進出の加速もそのパターンに当てはまる>


・ロシアの'裏庭'中央アジアに中国は進出を加速している。

・これは「ウクライナに忙殺されるロシアに代わって中央アジアの結束を固めるため」というより、ロシアの縄張りに本格的に切り込むためとみられる。

・この地域は中国にとって死活的な重要性を増しており、米ロが身動きしにくい間隙をついてアクションを起こすのは中国の常套手段でもある。

中国がロシアと完全に手を切ることは想定できないが、その一方でロシアと一蓮托生するつもりでいるとも思えない。

「裏切り」を思わせる4つの理由

G7広島サミットの開催日と同じ5月19日、中国政府は中央アジア5カ国の首脳を招いた国際会議C5+1を西安で開き、その共同宣言で「先進国が古臭い冷戦型の思考に陥っている」と批判したうえで、先進国主導の国際秩序と異なる秩序の必要を強調した。

この場で中国政府はインフラ建設などのために38億ドルの資金協力を約束した他、貿易や投資のさらなる活発化で合意した。

中央アジア5カ国は1991年のソビエト連邦崩壊にともなって独立したが、その後もロシアの影響が強い。

そのためC5+1西安サミットを「先進国vs中ロ」の構図でとらえ、「ウクライナ戦争に忙殺されるロシアに代わって中国が中央アジアの結束を固めること」が目的だったと理解することは可能だ。

しかし、別の捉え方もできる。

「ロシアがウクライナ戦争で手一杯の隙に、ロシアの'裏庭'に中国の影響力を伸ばすこと」が主な目的だったという見方だ。

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そのように考えられる理由は主に4つある。

1.中央アジアでロシア不信が表面化している
2.中国にとって中央アジアの重要性が高まっている
3.ロシアのいない場で全面的な支援を約束した
4.これまでも中国は米ロが忙殺されているタイミングで大きなアクションを起こしてきた

ロシア植民地主義への警戒

第一に、中央アジアではロシアへの警戒感が表面化していることは、中国にとってチャンスといえる。

中央アジアはロシア帝国の時代に編入された。それ以来いわばロシアの縄張りで、それはウクライナ侵攻後も同じだ。

例えば昨年、中央アジアで経済規模が最大のカザフスタンでは世論調査で、ロシアとの関係強化を支持した回答者は88%にのぼり、英シンクタンクのアリーシャ・イルハモフ博士は「ロシアの影響力を過小評価するべきでない」と述べている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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