マクロスコープ:さまよう「中流票」、選挙結果の振れ幅大きく たまる経済的不満
2月7日、東京都内で高市首相の街頭演説を聞く人々。REUTERS/Kim Kyung-Hoon
Yusuke Ogawa
[東京 10日 ロイター] - 8日投開票の衆院選では、自民党が歴史的勝利を収め、単独で316議席を確保した。単独政党が戦後に獲得した衆院選の最多議席数を更新した。政治動向に詳しい外資系資産運用会社ピクテ・ジャパンの市川眞一シニア・フェローは「正直、驚いた。まさか定数の3分の2(310議席)を超えるような結果になるとは全く予想していなかった」とした上で、「デフレからインフレへの急激な変化の中で、中間所得層の経済的不満がたまっており、民意の振れ幅が大きくなっている」と分析する。
内閣府の「国民生活に関する世論調査」によると、世間一般からみた自身の生活の程度が「中の中」と答えた人の割合は新型コロナウイルス禍前の2019年は約58%だったが、直近の25年は約47%まで減少するなど、下流に近い層が徐々に増加している。結婚や出産、住宅購入を諦めて人並みの暮らしを維持する人も少なくない。日本社会の「安定装置」の役割を担っていた中間層の衰退に歯止めがかからない状況だ。
「国民の9割はまだ中流意識を持っているが、その中身には変調の兆しが確実に見てとれる」。明治安田総合研究所の前田和孝・主任エコノミストはこう語る。「中の中」と答えた人の割合はコロナ禍後に過半数割れが定着する一方で、「中の下」と「下」は19年の計27%から昨年は35%に増えた。
前田氏はその背景について「就職氷河期世代や、シニア世代で増加が目立つ。高齢者は病気や介護への不安から元々ゆとりを感じにくいが、足元の物価上昇に伴って実質的な年金受給額も目減りしている」と説明する。特に単独世帯は、家賃や光熱費などの固定費を分け合えないため、生活コストが割高になりやすいという。
同調査は21年から調査員と対面しない「郵送法」に変更された。他人の目を気にする必要が無くなったため、生活の厳しさを率直に示す回答が統計上、より顕著に表れるようになったとの解釈もある。ただ、こうした傾向は、ほかの調査データでも確認できる。
例えば、「家計の金融行動に関する世論調査」(金融経済教育推進機構)によると、「経済的豊かさをあまり実感していない」「全く実感していない」の割合は25年は計61%に達し、19年に比べて約3ポイント増えた。みずほリサーチ&テクノロジーズの河田皓史チーフグローバルエコノミストは「主観的な認識における豊かさの低下は、インフレの影響が最も大きい」と指摘する。
賃上げの動きは消費者物価の上昇に追いついておらず、フルタイム労働者のうち(実質ベースで)基本給30万円以上60万円未満の人の割合は、24年は10年に比べて減少している。
経済的閉塞感は、時に既存の政治秩序を揺るがす地殻変動を引き起こす。河田氏は、二度にわたる米トランプ政権の誕生や英国のEU離脱(ブレグジット)といった海外の例を挙げて、「生活水準がなかなか向上しないことから、日本でも中間層の不満が高まっているようにうかがわれる」と述べた。
こうした中、SNSの普及なども相まって、近年の大型選挙は「石丸旋風」や参政党の躍進など目まぐるしく風向きが変わり、先週末の衆院選では、自民が事前予想を上回る圧勝を果たした。
<減税ポピュリズム、政策議論深まらず>
今回の選挙では、各党が揺れ動く民意をつかもうと、減税や社会保険料の軽減、給付金をこぞって訴えた。第一生命経済研究所の熊野英生・首席エコノミストはレポートで「与野党ともに成長戦略を語ることが苦手分野になっている印象がある。かつてのように『骨太の政策』や『構造改革』を打ち出せなくなった」と手厳しく批判。食料品の消費減税については「社会保障財源であるという位置づけを無視して、減税論が進んでいる点は極めて筋が悪い」と述べた。
エコノミストの間では「飲食料品の消費税ゼロは、財源が必要な割に経済効果は小さい。時限措置として実施する場合でも、延長せずに予定通り終了するべきだ」(大和総研の神田慶司氏)といった意見が多いが、解散から投票まで戦後最短の16日間の選挙戦では、政策効果などについて具体的な議論は深まらなかった。「減税ポピュリズム」の様相を強める政治の現状は、中間層のさらなる解体につながる危うさを孕んでいるといえそうだ。
(小川悠介 編集:橋本浩)
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