コラム

ウクライナ侵攻1年でみえた西側の課題──価値観「過剰」外交は改められるか

2023年02月28日(火)17時15分
ラマポーザ(左)とバイデン

ホワイトハウスを訪問した南アフリカのラマポーザ大統領(2022年9月16日) Evelyn Hockstein-REUTERS

<南アフリカが中ロと合同軍事訓練を実施したからといって、「反欧米」と決めつけるのは短絡的だ。新興国・途上国にとって重要なのは、実際に協力があったか、あるいは今後、協力が期待できるかどうかであって、相手の信条ではない>


・ウクライナ侵攻開始から1年の節目に中ロは南アフリカと合同軍事演習を行った。

・南アフリカの中立志向にはそれなりの歴史的背景があるが、それと同時に今回の軍事演習は西側による「中ロ封じ込め」の限界をも示している。

・自由や民主主義といった価値観を叫ぶことは、西側の外交に有利に働かない。

ウクライナ侵攻はいくつもの課題を浮き彫りにした。その一つは西側が自由や民主主義といった価値観をどれだけ強調できるかよりむしろ、いかにそれを控えられるかだ。

極音速ミサイルは発射されるか

ウクライナ侵攻の開始から1年を目前にした2月17日、ロシアは中国とともに南アフリカで10日間におよぶ合同軍事演習を開始した。この3カ国による合同軍事演習Mosi(「煙」の意味)は2019年に初めて開催され、今回で2回目だ。

今回の演習で注目されるのは、ロシア軍が核弾頭を搭載できる極超音速ミサイル3M22ツィルコンを持ち込んだことだ。

ツィルコンはマッハ8で飛翔し、射程は1000kmにもおよぶといわれる。ロシア軍が1月に実戦配備したばかりのツィルコンについて、プーチン大統領は「こうした力によって潜在的な脅威から国を守れる」と強調している。

今回の演習でツィルコンが発射されるかは不明だが、実弾発射訓練が行われれば人目をひくデモンストレーションになることは間違いない。

「ロシアは孤立していない」

もっとも、この時期にあえて大規模な軍事演習が行われたのは、新型兵器のデモンストレーションだけではなく、「ロシアは国際的に孤立していない」とアピールすることが目的だったとみてよい。

昨年3月1日、国連総会ではアメリカなどの提案により、ロシアのウクライナ侵攻に対する非難決議が採択され、国連加盟国193カ国中141カ国が賛成した。また、日本を含む西側先進国は対ロ取引を相次いで規制し、ウクライナに軍事・民生の両面で支援してきた。

ただし、ロシアとの通商規制などに踏み切ったのは40カ国程度にとどまっており、その大半は西側先進国だ。

言い換えると、多くの新興国・途上国はロシア非難決議に賛成しながらも、取引の規制などには踏み切ってこなかった。それはロシアにとって、体面を保つだけでなく通商を確保するうえでも意味がある。

中国だけでなく、アフリカを代表する新興国である南アフリカが参加する合同演習は、こうしたロシアの利益に適うものだ。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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