コラム

ウクライナ侵攻に落とし所はあるか──ロシアに撤退を促せる条件とは

2022年02月25日(金)15時35分
「特別軍事作戦」を承認したプーチン大統領

「特別軍事作戦」を承認したプーチン大統領 Russian Pool/via REUTERS TV


・ロシア軍が開始した「特別軍事作戦」はウクライナへの軍事侵攻に他ならない。

・これに対して先進国が取れる対抗策には限界がある。

・ロシアを撤退に追い込めるとすれば、ウクライナでの戦闘が長期化した時とみられる。

いよいよロシア軍がウクライナ全土に向けて攻撃を開始した。これを止めるための交渉が可能になるのは、戦闘が長期化した時しかないと見受けられる。

怒涛のウクライナ侵攻

プーチン大統領は2月24日、ウクライナでの「特別軍事作戦」を宣言した。これと前後して、ウクライナ東部のドンバス地方にロシア軍が侵入しただけでなく、南部のオデッサなどには黒海から部隊が上陸し、首都キエフなどにもミサイル攻撃が始まったと報じられている。

これに関してロシア政府は「ウクライナの'軍事政権'による大量虐殺で、ロシア系人を含むウクライナ人が苦しめられている」として、「これは(自衛権を定めた)国連憲章第51条にのっとったものだ」と主張している。

ロシア政府は「極右が強い影響力をもつウクライナ政府のもとでロシア系人が迫害されている」と言いたいのだろう。

しかし、仮にそうだったとしても「大量虐殺」と呼べるかは別問題だ。さらに外国からの侵略に対する自衛権を認めた国連憲章第51条をどのように曲解しても、ウクライナ侵攻を正当化することはできない。

もっとも、そうした大義名分にあまり意味がないことは、ロシア政府自身が一番よくわかっていることだろう。

基本的にロシアの目的は「欧米の影響力がウクライナに伸びないようにすること」にある。ウクライナのNATO加盟反対はその中心だが、欧米はこれに言を左右にして明確な返答をしてこなかった。

ロシアが本気であることを欧米に認めさせる手段は多くない。だからその手段としてウクライナ侵攻を開始した、というのが問題の本質である。

だとすると、この事態を収拾することは容易ではない。ロシア軍を停止させる手段がほとんどないからだ。

経済制裁の限界

欧米や日本は、ロシアに対してすでに投資凍結、要人の資産凍結、ロシア国債の引き受け停止といった制裁に踏み切ってきた。

しかし、その効果に大きな期待はできない。アメリカをはじめ各国はロシアとの取引を全面的に停止するとは言っておらず、軍用品やハイテク製品を除けば輸出規制も行われていない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

高市首相、中国首相と会話の機会なし G20サミット

ワールド

米の和平案、ウィットコフ氏とクシュナー氏がロ特使と

ワールド

米長官らスイス到着、ウクライナ和平案協議へ 欧州も

ワールド

台湾巡る日本の発言は衝撃的、一線を越えた=中国外相
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナゾ仕様」...「ここじゃできない!」
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 4
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 5
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    【銘柄】いま注目のフィンテック企業、ソーファイ・…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 9
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story