コラム

「恋人」アメリカを繋ぎ止めたいイスラエル──パレスチナで暴走する意図とは

2021年05月18日(火)16時45分
空爆で炎上するガザのビル

イスラエルの空爆で炎上するガザのビル(2021年5月17日) Ibraheem Abu Mustafa-REUTERS


・アメリカ政府は基本的にイスラエルに甘いが、その行動によって足を引っ張られることもある。

・そのため、アメリカはしばしばイスラエルにブレーキをかけようとしてきた。

・しかし、それはかえってイスラエルに「見放される」不安を呼び、アメリカに手を離させないためにあえて暴走することが一つの外交手段として定着している。

パレスチナで暴走するイスラエルは、危機的な状況をあえて作り出してアメリカを動かそうとする傾向があり、この点でアメリカの同盟国でありながらも北朝鮮と大差ない行動パターンが目立つ。

静かなるアメリカ

パレスチナでの衝突は5月15日までに145人以上の犠牲者を出しており、近年で最悪のレベルに近づいている。イスラエル軍は空爆の他、ガザ地区に地上部隊まで派遣している。

衝突の発端はイスラエルの裁判所が4月、東エルサレム周辺に入植したユダヤ人の権利を認め、居住していたパレスチナ人たちに退去を命じる判決を下したことだった。東エルサレム周辺は国連決議でパレスチナ人のものと定められているが、イスラエルによって実効支配されている。

mutsuji210518_map.jpg

イスラエルによる力ずくの支配を既成事実として追認する不公正な判決はパレスチナ人の不満に火をつけ、双方の衝突が激化した。さらにパレスチナ人のイスラーム過激派ハマースがイスラエルに2000発以上のロケット攻撃を行なうなど、エスカレートしてきたのである。

こうした事態に世界各国から批判や懸念が出るなか、イスラエルの同盟国アメリカだけは静かだ。

バイデン大統領は12日、「衝突が遅かれ早かれ終息すると予測しており、それを期待する」と述べた一方、「数千のロケットが領域に飛んでくるならイスラエルには自衛の権利がある」とイスラエルの行動を容認した。アメリカの及び腰が災いして、国連安保理では一致した見解さえ出せていない。

大目にみられてきたイスラエル

基本的にアメリカはイスラエルに相当甘い。

イスラエルは1948年に独立したが、独立そのものがアメリカの肩入れによるものだった。当時すでにユダヤ人とパレスチナ人の土地争いは激化していたため、土地を分割してそれぞれに国家建設を認めることが国連で決議されたが、この際に人口が圧倒的に少ないユダヤ人に土地の56%を割り当てるという不公平な案が通ったのは、アメリカが強硬に推したからだった。

これは当時のトルーマン大統領が1948年の大統領選挙で、アメリカ国内で大きな影響力をもつユダヤ人にアピールしたかったからともいわれる。いわばアメリカはイスラエルの生みの親なのであり、それ以来アメリカはイスラエルを一貫して支持・支援してきた。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシアがフランスに警告、「ウクライナに派兵なら標的

ビジネス

アングル:中国当局、IPO申請企業への検査強化 携

ワールド

インド、インフレに「たちの悪い」上振れ見られず=首

ビジネス

東レ、前期純利益見通しを下方修正 風力発電翼で減損
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「真の脅威」は中国の大きすぎる「その野心」

  • 5

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 6

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 7

    デモを強制排除した米名門コロンビア大学の無分別...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 10

    中国軍機がオーストラリア軍ヘリを妨害 豪国防相「…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 8

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story