コラム

ルーマニアはエルサレムに大使館を移すか──「米国に認められたい」小国の悲哀と図太さ

2018年04月24日(火)18時30分

ルーマニアの与党は、これらのコストを負担してでも、米国に「認められる」利益の方が大きいと判断したものとみられます。先述のようにルーマニアは東ヨーロッパで屈指の産油国。中東からの石油輸入への依存度が低く、さらに近年では米国が世界最大の産油国となりつつあることは、ルーマニアにとってコストを引き下げる「保険」となり得ます。

のみならず、「大きな負担をしてでも米国についていく」ことそのものが、ルーマニアにとって米国を振り向かせる手段でもあります。仮にそうなった場合、そこには小国ならではの悲哀をうかがえますが、同時に小国ならではの図太さをも見いだせるでしょう

米国は「つれなく」することで「認められたい」ルーマニアを振り回してきました。しかし、エルサレム首都認定の問題で孤立するなか、それでもルーマニアが「献身」を表明すれば、米国はこれまでと同じ態度はとれなくなります。そうすれば、ルーマニアに続こうとする国が出てこなくなるからです。言い換えれば、ルーマニアがエルサレム首都認定の問題で米国に追随した場合、米国もルーマニアを無視できなくなるといえます。

米国に限らず大国は、ともすれば自分たちが世界を切りまわしていると思いがちです。しかし、どんな大国も支持者なしに行動することは困難です。つまり、「最も高く売れる時に売る」小国の行動も、大国の動向を左右する大きな力になるのです。

中間の国・日本

ただし、小国ならではの現実主義は、状況次第でボスを見限ることをも意味します。アジアでいえば、長年米国につき従っていたフィリピンで、中ロの台頭にあわせて、ドゥテルテ大統領が米国と距離を置き始めていることは、その典型です。

ひるがえって日本をみると、米中ロの狭間でそれらの動向に気を配らなければならない一方、国際的な発言力のためには小国の支持も必要な、いわば中間の立場です。ところが、日本国内の関心は、政府・民間を問わず、大国に向かいがちです。

日本が国際的な発言力を増そうとするなら、特定の大国にだけ働きかけたり、逆に自らの国力の充実を目指したりするだけでは不十分で、困った時に支持してくれる関係を多くの小国と築けるかが重要です。ルーマニアのエルサレム首都認定の問題は、今後の推移を見守るしかありませんが、それが中間の国・日本にもこの教訓を改めて示したことは確かといえるでしょう。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。他に論文多数。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件

ワールド

アフガン中部で銃撃、外国人ら4人死亡 3人はスペイ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 5

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    無名コメディアンによる狂気ドラマ『私のトナカイち…

  • 8

    他人から非難された...そんな時「釈迦牟尼の出した答…

  • 9

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 10

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story