コラム

静かに広がる「右翼テロ」の脅威―イスラーム過激派と何が違うか

2018年03月01日(木)14時00分

米フロリダ州の高校で銃を乱射したクルーズ容疑者(写真中央)の犯行もテロ Mike Stocker-REUTERS

国際ニュースでみない日はないほど、イスラーム過激派によるテロ活動はもはや日常になった感さえあります。しかし、欧米諸国ではここにきて新たな脅威が台頭しており、しかもそれは内側から沸き起こってくるものです。

2月27日、英国警察のテロ対策責任者だったマーク・ロウリー氏は「世界中がイスラーム主義者と右翼の過激主義とテロリズムという共通する課題に直面している。しかし、英国よりこれにうまく対応できている国はないと思う」と発言。英国のテロ対策が他国のそれより優れているかどうかはさておき、「白人右翼テロ」が新たな脅威として、欧米諸国で広がりつつあることは確かです。

米国での白人右翼テロ

白人右翼によるテロへの警戒は、英国以外の国でも広がりをみせています。

2017年6月、米国の調査機関インベスティゲイティヴ・ファンドは2008年から2016年までのデータから、米国ではイスラーム過激派によるものより、白人右翼によるテロの方が頻繁に発生し、多くの犠牲者を出していると報告。この調査によると、

・イスラーム過激派による事件は63件、そのうち76パーセントは未然に防止された。

・白人右翼による事件は115件、そのうち35パーセントが未然に防止された。

・死者を出した事件は、イスラーム過激派による事件のうち約13パーセントで、総死者数は90人。

・これに対して、白人右翼による事件のうち約三分の一で死者が出ており、総数は79人。

 ここから、発生の頻度で比較すれば、トランプ氏が「イスラーム過激派によるテロ」を強調して大統領選挙で勝利した米国では、ムスリムによるものより白人によるテロの方が多く発生していることが分かります。さらに、死者の総数で比較すればイスラーム過激派の方が多いものの、この多くは2009年のテキサス州での乱射事件によるもので、白人右翼による事件の方が銃器の使用頻度が高く、より頻繁に死者を出しています。そのうえ、未然に防止された割合から分かるように、当局はムスリムと比べて白人への警戒・監視に熱心だったとはいえません

「ヘイトクライム」とテロリズム

「白人右翼のテロ」という表現に違和感をもつひともあるかもしれません。

一般的にテロリズムとは「殺人を通して、政敵を抑制・無力化・抹殺しようとする行動」(『政治学辞典』、弘文堂)と定義されます。最近のテロ活動には殺人以外に脅迫、暴行、器物損壊、誘拐、レイプなど、さまざまな手段が含まれるものの、概ねこの定義にしたがってよいと思います。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米陸軍、ドローン100万機購入へ ウクライナ戦闘踏

ビジネス

米消費者の1年先インフレ期待低下、雇用に懸念も=N

ワールド

ロシア、アフリカから1400人超の戦闘員投入 ウク

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 8
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story