コラム

クルド女性戦闘員「遺体侮辱」映像の衝撃──「殉教者」がクルド人とシリアにもたらすもの

2018年02月05日(月)19時52分

「殉教者」がもたらしかねない悲劇

ただし、米国政府がいずれに傾いたとしても、「殉教者コバニ」を出したクルド人勢力は抵抗し続けるとみられます。今回の映像に関してYPGは「勝利まで抵抗をやめないという我々の決意を強めるだけ」と強調しています。

古来、苦しい立場に置かれた人々には、自分たちのために命を投げ出す英雄を心の拠り所に結束することが珍しくありません。キリスト教の初期の聖人たちは、その代表です。その結束は、状況が悪化すればするほど、強くなる傾向があります。つまり、状況が悪化しつつあるシリアのクルド人たちにとって「殉教者コバニ」は団結と抵抗を強めるシンボルになるとみられます。

しかし、それは結果的に、トルコ軍による攻撃をさらにエスカレートさせ、さらに犠牲者を出すことが懸念されます。言い換えると、今回の映像はクルド人社会にとって、団結や結束だけでなく、さらなる苦難をも暗示するものになるといえるでしょう。

※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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